2022.01.12 【計測器総合特集】エヌエフHD 脱炭素社会の実現を支える計測・制御ソリューション

 地球温暖化対策が世界的な課題となっている中、日本は2050年カーボンニュートラル、30年に温室効果ガスを13年度比46%に削減することを宣言した。革新的な技術開発と、その早期の社会実装が求められると同時に、現時点で活用可能な技術を最大限に活用した取り組みが進められている。

電力品質確保へ評価システム提供

■再生可能エネルギー主力電源化

 21年10月に発表された第6次エネルギー基本計画における30年の電源構成比(発電量)を表1に示す。「再生可能エネルギーの主力電源化を徹底し、国民負担の抑制と地域との共生を図りながら最大限の導入を促す」とうたわれている。再生可能エネルギーの割合は、18年に策定された22%から36%へと高い目標に変更された。

 東日本大震災以降、原子力発電が次々稼働停止となり、不足する電力を再生可能エネルギー中心に賄うことを目標に、再生可能エネルギーの普及が進められた。促進策の一つとして、12年にはFIT(固定価格買い取り)制度がスタートした。これにより太陽光発電や風力発電の普及は進んだものの、いまだに不足分はLNGや石炭などの化石燃料で賄われている。

■電力の安定供給とアグリゲーション・ビジネス

 8年後の30年の目標に向かって、太陽光発電と風力発電の普及がさらに加速すると考えられる。しかし、これらは天候などの自然状況に発電量が左右されるため、電力需要に合わせて発電できないという欠点がある。電力は、需要と供給を常に一致させる「同時同量」が原則で、このバランスが崩れると周波数が変動し電力品質が低下する。最悪の場合は、停電となる。

 18年の北海道地震の際の大規模停電(ブラックアウト)は、火力発電所のタービンが故障し、同時同量のバランスが大きく崩れたことが原因である。これを契機に、電力需給バランスを保つエネルギーマネージメントの重要性が強く意識されるようになった。

写真1=家庭用蓄電システムSmart Star3(13・16kWh、NFブロッサムテクノロジーズ社製)

 一方で、需要家のエネルギーマネージメントや災害時の非常用電源として、19年から始まった卒FITなどの動きと相まって、蓄電池が普及してきている(写真1)。

 さらに、蓄電池、電気自動車、燃料電池など需要家側エネルギーリソースの普及拡大と、IoT技術の進展等により、電力システムを取り巻く環境は変化した。

 需要家エネルギーリソース(DSR:Demand Side Resources)や、分散型エネルギーリソース(DER:Distributed Energy Resources)を活用し、電力供給状況に応じて需要パターンを統合制御する、いわゆるデマンドレスポンス(DR)、バーチャルパワープラント(VPP)、マイクログリッドなどのエネルギー・リソース・アグリゲーション・ビジネスへの注目が高まっている。負荷平準化、再生可能エネルギーの供給過剰の吸収や、電力不足時の供給などの機能として、新たな電力システムの構築が期待されている。

 電力需給バランスを保ち、電力品質を確保するための実証実験が地方自治体などを中心に各地で進められている。この動きに対して、エヌエフ回路設計ブロックは、各種評価システムを提供している。

写真2=需要家側電源模擬装置

 需要家側電源模擬装置(写真2)は、需要家側に設置された太陽光発電と蓄電池を模擬するシステムで、パワーコンディショナーを模擬する三相10kWの系統連系インバーターを内蔵している。これは、再生可能エネルギーが大量に接続されたVPPやマイクログリッドなどが構築された場合には、例えば隣家への売電といった需要家側のP2P(peer to peer)電力取引が行われ、従来では想定されていなかった電力の流れが発生する可能性があるため、それらを模擬して評価するシステムである。

電解槽の各種直流電源提供

 新たな電力システムの構築が進むにつれて、将来にわたる安定的なエネルギー需給構造の確立に向けた取り組みは、ますます活発化していくと考えられる。

■脱炭素化の切り札となるか~水素エネルギー

 水素は、利用時にCO2を排出せずに燃料電池などを活用することで、電気や熱を効率的に取り出すことができる。電力分野の脱炭素化のみならず、自動車や電動化が困難な産業機器などの脱炭素化も可能であると期待される。

 水素の製造、貯蔵・輸送、供給・利用のためのインフラ整備、コストの低減などの課題解決を踏まえて、社会実装を見据えた取り組みが活発化している。

 水素は、化石燃料、工業プロセスの副産物(副生水素)、水の電気分解などさまざまな資源から製造される。化石燃料から製造する水素は製造工程で二酸化炭素を排出するが、水電解による水素製造は、二酸化炭素を排出しないというメリットがある。

 特に再生可能エネルギー由来の電力を利用して水電解で製造される水素は、CO2フリー水素と呼ばれ、CO2排出削減に大きく貢献すると期待されている。

 水電解による水素製造には、直流電源が使われる。エヌエフグループの直流電源メーカーである千代田エレクトロニクスでは、電解槽の規模に合わせた各種直流電源を提供している(図1)。

自動運転のニーズに対応
建設機械分野などへ各種システム提供

■建設現場の電動化

 電動化の波は、一般の自動車のみならず、産業機器、とりわけ建設機械分野にも押し寄せている。建設機械は、油圧系統の電動化が進められている。高出力モーターに対応した電力回生機能を備えたインバーターが必要となる(写真3)。現状はコスト面や稼働時間、充電インフラの整備などの課題もあるが、よりハイパワーが求められる大型建機の動力には燃料電池や水素エンジンの活用なども想定されている。

写真3=建設車両向け三相双方向(回生)インバーター

■電動化と自動運転 建設・物流分野

 EVシフトの潮流の中、CASE(「コネクテッド(Connected)」「自動運転(Autonomous)」「シェアリング(Shared&Services)」「電動化(Electric)」)の一つである自動運転技術の進展も注目される。

 建設や物流分野などでは、深刻な人手不足、倉庫作業の効率化などの観点から、自動運転のニーズが高まっている。

 エヌエフグループの計測技研では、オートモーティブ関連のHILSソリューションの多くの実績をベースに、工場や港湾などで資材を運搬する大型特殊車両の自動運転シミュレーションの提案をしている。大型特殊車両は独特の構造などから、一般車両のシミュレーションプラットフォームを利用できないため、個々の車両の特性に合わせたシミュレーションが必要である。

 図2に自動搬送システムの自動運転シミュレーションの事例を示す。

図2=自動搬送システムシミュレーション

 脱炭素社会の実現に向けて進められているさまざまな技術開発に対し、エヌエフグループは、計測制御技術を駆使した各種システムの提供による貢献を目指している。

 〈筆者=エヌエフホールディングス〉