2022.03.16 電機大手の春闘、異例の満額回答グローバル競争の激化で人材投資強化

オンライン形式で共同取材に応じる日立製作所の中畑英信執行役専務(提供=日立)

 大手電機メーカーの2022年春季労使交渉(春闘)が16日、集中回答日を迎えた。新型コロナウイルス禍で打撃を受けた業績の回復を追い風に、主要企業が労働組合側の要求に満額回答した。電機大手のベアは9年連続で、満額回答は異例という。一方で、優秀な人材を巡る獲得競争が激化する中、職務内容を明確化し最適な人材を配置する「ジョブ型」人事制度の導入を加速する動きも広がりつつある。

 従業員の基本給を底上げするベースアップ(ベア)に相当する賃金改善については、日立製作所と東芝、NECが3000円と、労働組合側の要求に満額回答した。富士通は前年の妥結額(1000円)を上回る1500円で、回答水準にばらつきが見られた。

 人材の獲得を狙った動きも広がり、初任給のアップも相次いだ。大卒で見ると、東芝が要求額の約5倍に相当する1万円増と回答し、日立も同額を引き上げた。NECも大卒などで1万円増と回答した。

 ジョブ型人事制度への転換を急ぐ機運も高まりつつある。23年度を目標にジョブ型人事制度の全社員への導入を目指すNECは「フェアな評価」に基づく報酬を徹底するという観点から、定期昇給とベアの合計額に大きく差をつけることにした。

 管理職を対象にジョブ型人事制度を導入していた富士通も、4月に一般社員に拡大することを目指して労使で協議中。職責の大きさや重要性を格付けして報酬に反映するという。業界トップ水準とされる初任給は大卒で要求額を1500円上回る3500円増とした。

 各社が人材投資を強化する背景には、脱炭素化やデジタルトランスフォーメーション(DX、デジタル変革)を巡るグローバル競争の過熱がある。こうした潮流を自社の成長に結びつける有能人材の獲得競争も激しさを増す中、待遇面の改善などが不可欠となっていた。

 日立のCHRO(最高人事責任者)を務める中畑英信執行役専務は同日、報道各社の共同取材に応じ、「社員のモチベーションを高めなければ、(グローバルな事業環境の変化を克服するぐらいの)成長はできない」と、人材投資の必要性を説いた。

 さらにジョブ型人事制度にも言及。「年齢に関係なくそれぞれの社員がやりたい仕事をきちんとこなし、それに見合う処遇を受ける形にしないと、日立も持ちこたえられない」と指摘した上で、「ジョブ型を強力に推進していきたい」と強調した。

 東芝は、組織や仕事に対する従業員の貢献意欲「エンゲージメント」の向上という視点も労使交渉で重視したとしており、人材の成長意欲を高める動きも業界共通の焦点となりそうだ。