2022.06.21 Let’s スタートアップ!CoCooking消費者と店舗を効率よくマッチング 国内最大級の食品ロス削減サービス「TABETE」

 成長が著しいスタートアップ企業を取材し、新しいビジネスの息吹や事業のヒントを探る「Let’s スタートアップ!」。今回は、食品ロスの問題に、スマホアプリ「TABETE」で取り組む株式会社コークッキング。

 「TABETE」は、食品ロスになりそうな食品を抱える店舗と、食品ロス削減に興味のある消費者をつなげるマッチングアプリ。2018年にリリースされた後、コロナ禍で大きな注目を集めたこともあり、国内最大級の食品ロス削減サービスにまで成長している。

 創業のきっかけや「TABETE」誕生の裏側、これまでの苦労などを、取締役COO(最高執行責任者)の篠田沙織さんに聞いた。

プロフィール 篠田沙織(しのだ・さおり)・株式会社コークッキング 取締役COO
小学生のときに白血病になり、食事制限を受けた経験から「食」に対して強い興味を抱くようになる。新卒で大手グルメサイトに入社し、飲食店営業およびWebディレクターを経験。その後コークッキングに転職し、取締役COOに就任。

食品ロスに関心のある消費者と店舗をつなぐ

 まだ安全に食べられるのに捨てられてしまう食品、「食品ロス」を減らそうという動きが世界中で広まっている。日本でも2019年に、食品ロス削減推進法(食品ロスの削減の推進に関する法律)が施行され、国民運動的なレベルにまで盛り上がっている。特に2020年に新型コロナウイルスの感染拡大が始まった当初、各所で大量の食品が余り、さまざまなメディアで報道されたのは記憶に新しいだろう。

 ただ、食品ロスの削減に貢献したいと思いつつも、普段の消費行動に反映するのはなかなか難しい。スーパーやコンビニなどで食品を買うたびに、「これは正しい買い方だろうか」と考えるのは、思った以上に負担がかかるものだ。そこで、日常生活の中で、肩肘張らずに食品ロスの削減に貢献できるフードシェアアプリ「TABETE」を開発・提供したのがコークッキングだ。

 「TABETE」は、食品ロスになりそうな食品を抱える店舗と、食品ロス削減に関心がある消費者をつなげるマッチングアプリ。その使い方はこうだ。

 まず店舗側は、食品ロスになりそうな食品が発生した場合、その食品を管理画面上から「レスキュー依頼」という形でアプリ上に出品する。一方、食品ロスに関心のある消費者側は、アプリを開くと、自分がいる場所を中心に、レスキュー依頼がある店舗の一覧が表示されるので、帰宅時などに寄れる店舗の商品を探して、事前予約と決済を済ませ、仕事後などに引き取って帰る。商品のほとんどは福袋形式の形で出品され、通常価格よりも低い値段に設定されるケースが多いのも特徴だ。

 「TABETE」は、こうした仕組みにより、食品ロスになりそうな食品と、食品ロス削減に関心のある消費者をマッチングし、効率よく食品ロスを削減している。

「TABETE」の利用画面(画像提供:コークッキング)

 現在「TABETE」は、パン屋、ケーキ屋、総菜店など、外で購入した食品を自宅に持ち帰って食べる、いわゆる中食(なかしょく)を扱う店舗で多く導入されている。類似のマッチングサービスの多くが伸び悩む中、「TABETE」は登録ユーザー数が50万人を突破し、国内最大級の食品ロス削減サービスと呼ばれるまでに成長している。

「TABETE」の利用イメージ(画像提供:コークッキング)

料理を使ったワークショップを提供する会社として設立

 「TABETE」を生み出したコークッキングは、どのように設立されたスタートアップなのだろう。篠田さんによると、「もともと料理を使ったワークショップ事業を行うために立ち上げられた会社」だという。

 当社は、もともと大学で同じサークルに所属していた代表の川越一磨と共同代表の伊作太一が、料理を使ったワークショップ事業を行う会社として、2015年に設立しました。

 伊作は研究室で、言語化されていない知識や価値を言語化してコミュニティー内の対話と発想を活性化する「パターン・ランゲージ」という手法を研究していたのですが、その手法と料理を合わせて、何か事業ができないかということで、人間の創造性を高めるための料理を使ったワークショップを企業向けに実施するビジネスを始めました。

 ただ、料理を使ったワークショップを提供しつつも、メンバーの中では、「食」をテーマに扱う企業なのに、食品ロスなどの社会問題に対してアクションを起こさなくていいのか、という思いが長くありました。

 また代表の川越は、飲食店の店舗経営も経験していたことから、食品ロスなど「食」の裏側の課題にビジネスとして取り組めないかという思いを抱いていました。

 そうしたときに、北欧のデンマークで飲食店や小売の食品ロスを減らすためのアプリ「Too Good To Go」がリリースされ大きな注目を集めました。

 それを見た川越と伊作は、「Too Good To Go」の日本版のようなサービスを提供すればいいのではないかと着想を得て、「TABETE」の開発に着手し、2018年にリリースするに至ったのです。

 ちなみに、当社は人間の創造性を豊かにするということを大きなビジョンとして掲げています。

 「TABETE」は、消費者一人一人の、日常の買い物の仕方に影響を与えるサービスとなっています。食べ物を買うに当たり、単純に自分が食べたいものを選ぶのではなく、店舗さんが困っている背景や、食品ロスが発生している背景を考えて買うことができる。それがユーザーの創造性を豊かにすると考えています。

 そういった観点からも、「TABETE」は当社のビジョンに沿ったサービスだと捉えています。

コークッキング設立と「TABETE」誕生の経緯について話す篠田さん

開始当初は何度も資金がショートしそうに…

 今でこそ順調に業績を伸ばしている「TABETE」だが、事業が軌道に乗るまではさまざまな苦労があったという。

 特に大変だったのは、「TABETE」をローンチしてから事業として成長させるまでの過程で、何度か資金がショートしそうになったことです。

 リリースしてからしばらくはどういった店舗にアプローチしていくべきかが定まっておらず、このまま進んでいっていいのか、それともピボット(事業の路線変更)した方がいいのか、ずっと悩んでいました。

 2、3年そうした形でやっていく中で、「TABETE」がどういう事業者に使っていただけるのかを分析する機会を得ました。すると、中食業態の店舗さんに大変マッチしていることが分かったのです。

 中食業態の店舗では、ある程度の商品数が陳列されていないと、「商品数が少ないからここはやめておこう」とお客さんが来店してくれないことが多い。そのため、廃棄を見込んで商品を作っているところが多いのです。つまり、日常的に食品ロスで困っているというわけです。

 だったら、食品ロス削減を効率化するためにも、まずは中食業態の店舗さんに絞り込んでお声がけしていこうと。そう方針を決めたことがターニングポイントとなりました。利用店舗が堅調に伸び始め、事業として一段上の段階に上ることができたのです。

「中食業態の店舗に集中的にアプローチすることを決めてから、事業が軌道に乗り始めた」と篠田さん

「お得」という言葉は使わない

 「TABETE」以外にも食品ロス削減を目的としたサービスは複数登場している。そうした中で、「TABETE」が支持されている理由は、どこにあるのだろう。篠田さんは、「ブランドコンセプトが明確であったことが強みになっている」と分析する。

 私たちはブランドコンセプトがすごく重要だと考えています。というのも、食品ロス削減のサービスは、ともすれば「激安サービス」や「お得サービス」といったものになりがちだからです。そうすると結局、消費者は食品ロス削減に目が行かなくなってしまいます。

 そこで私たちは、サービスの中で「お得」という言葉を使わないようにし、自分にもお店にも地球にも、みんなに心地いい選択をしよう、ということをコンセプトに打ち出しています。

 「お得だから買おう」ではなく、食品ロスが発生している背景や理由をちゃんと見て、そこに納得して、買い物していただく仕組みを意識しているのです。

 そのことが、ユーザーさんが「食品ロスが発生しそうだからレスキューしよう」という気持ちを抱くことにつながるほか、例えばホテルのビュッフェなどハイブランドを掲げる店舗さんが、ブランド価値を損なうことなく、食品ロス削減に取り組めることにもつながっています。

 さらに、コンセプトが明確なことは自治体からの幅広い支持につながり、多くの自治体さんとの連携も実現しています。

小学生のときの闘病体験が原点

 ここで篠田さん自身についても伺った。そもそもどういった体験がきっかけで、食品ロスの削減に興味を抱くようになったのだろう。

 「食」に関する仕事に就こうと考えるようになった原点は、小学生の時に急性リンパ性白血病にかかったことです。2年ほど入院し、自由に食べ物が食べられず、「食」に対する思い入れが強くなりました。

 食品ロスについて興味を抱くようになったのは、学生の時にカフェでアルバイトをしたことがきっかけです。そこは環境に関心が高いことでも知られるカフェチェーンだったのですが、発注作業を担当した際に、品切れが許されないため、廃棄を見込んだ上で商品を仕入れる仕組みになっていることを知りました。

 これがきっかけで、食品ロスの問題は商習慣や構造から変えていかないと解決できないだろうと考えるようになり、自分でこの問題を解決できる仕事に就きたいと思うようになったのです。

 最初は食品関連のIT会社に入りました。事業会社に入り、現場でどんなふうに動いているのかを見た方が起業に役立つだろうと考えたからです。

 その後、志を同じくする川越らと出会い、彼らは既に会社を立ち上げていたので、だったら一緒にやらせてもらおうと。前の会社を辞め、コークッキングに入ることを決めたのです。

 実際に入社し、後悔することは全くありませんでした。私は取締役COOというポジションで、「TABETE」事業を中心に担当しています。当社におけるCOOは、会社のボトルネックになっている部分に入り込み、整えていく、いわば「会社のばんそうこう」のような役割です。

 スタートアップのプロダクトは走りながらつくっていくので、至る所に穴があり、そこを埋めることで、徐々にプロダクトが成長していく。そこには大きなやりがいがありますし、一生に一度あるかないかの貴重な体験をさせてもらっていると感じています。

「某カフェでのアルバイト体験が、食品ロスに関心を持つきっかけになった」と篠田さん

食のサプライチェーン全体のロスを削減できるサービスを

 現在コークッキングでは、どのような未来像を描いているのだろう。

 短・中期的には、「TABETE」の導入店舗を増やすことに力を入れていきます。

 現在、50万人ほどのユーザーさんに対して、約2100店舗が導入している状態です。このため、家や職場の近くに導入店舗が見当たらず、使えていないユーザーさんも多い。

 今後は全国の、少なくとも都市圏では(密度高く)「TABETE」を使っていただけるよう、営業強化していきたいと思います。

 長期的には、食のサプライチェーン全体の食品ロスに影響を与えるような事業を構築したいですね。

 現在私たちは、消費者に近い中食、外食領域のソリューションを提供していますが、もっと上流や下流のところ、例えば、消費者の家庭のロスにも携わるようなソリューションを展開できればと考えています。

 また、そもそも食品ロスが発生する前のところにも、取り組めたらいいなと思います。

 最後に、今必要としているものは何かと聞いた。すると篠田さんからは、「食品ロス削減に取り組む『法人営業』」という答えが返ってきた。

 先ほどお伝えしたように、現在当社では、「TABETE」を利用いただける店舗さんが圧倒的に足りていない状況です。

 食品ロス削減など社会問題の解決に携わりたい。そんな志を持つ方に、ぜひ加わっていただきたいですね。

(取材・写真:庄司健一)
社名
株式会社コークッキング
URL
https://www.cocooking.co.jp
代表者
川越一磨
本社所在地
埼玉県東松山市元宿 1-29-17
設立
2015年12月1日
資本金
3億8,250万5,880円
従業員数
6人
事業内容
フードシェアリング(TABETE)事業、TABETE レスキューデリ事業、TABETE レスキュー掲示板事業、パターン・ランゲージ制作事業、イベント・ワークショップ事業