2022.07.21 【LED照明総合特集】IoT化で快適・高効率化、高付加価値訴求の動きが加速
国内の照明市場で、IoT化による快適・高効率な制御や、人に寄り添う機能の実装など、付加価値を訴求する動きが加速している。出荷台数に占める、そうした付加価値照明の構成も徐々に増えている。コロナ禍による在宅時間の増加も付加価値照明の需要を押し上げる要因になっており、住宅分野を中心に広がりつつある。今後は非住宅分野でも需要は高まると見て、照明各社は戦略的な開発を推し進めている。
「開発したサーカディアンシーリングライトは人に寄り添う優しいものだ」。そう自信を見せるのは、オーデリックで開発責任者を務める今野政義取締役開発本部長だ。
日本照明工業会(JLMA)は、IoT化によりつながる照明をはじめ、生体機能をサポートする明かりや災害を検知・通知する明かりなどを「CSL&HCL」と定義付け、昨年4月から毎月の出荷統計に占める割合の公表を始めた。
オーデリックが7月に発売したサーカディアンシーリングライトは、起床時や就寝時など生体リズムに合わせた調光調色を実現するもので、CSL&HCLの一つに位置付けられる。単なるオン/オフという照明の基本機能にとどまらない、暮らしを快適にしたり、暮らしに利便性を提供したりする付加価値照明だ。
CSLは「コネクテッド・スマート・ライティング」、HCLは「ヒューマン・セントリック・ライティング」の略。JLMAはこうした照明の普及を目指して、WebサイトやSNSなどを中心に認知拡大に向けたアピールを行っている。
こうした照明が重視されるようになったのは、従来のようなオン/オフ機能だけの照明では差別化が図れず、製品の単価アップにもつながらないからだ。LED照明は普及に伴い、価格の下落が進んだ。半面、半導体技術であるLEDはデジタル技術とのシナジーを図りやすく、ネットワークへの接続でこれまでにない照明の価値や制御を実現できるようになっている。
ただ、照明は「光っていればいい」という意識が強く、こだわりを持たない層も少なくない。若年層を含めて〝ガジェット好き〟にもアピールしやすいIoT化は、スマートフォンやタブレットから直感的な調光調色の操作ができるほか、スマートスピーカーと連携した音声操作も可能。コロナ禍で住環境の見直しが進んだことで、こうしたIoT照明にも再び注目が集まっている。パネル型IoT照明を販売するカナダのナノリーフが、今年から日本市場に本格的に進出するなど、新たな動きも表面化してきている。
IoT化しているLED照明も増えているが、同時に進んでいるのが、明かりの質の追求だ。LED素子の技術進化もあり、オーデリックのサーカディアンシーリングライトには、日亜化学工業が開発した新たなLED素子「AZURE(アズール)」が採用されている。この素子で2万Kという青空のような明かりを再現しているが、実力値は20万Kまで出せるとしており、LED素子の進化も再現できる明かりの幅を広げているようだ。
停電といった災害時に役立つ照明も提案され始めた。ホタルクスは、停電時に自動で非常点灯する防災用LEDシーリング「HotaluX AID(ホタルクス エイド)」を昨年12月に発売。オーデリックも停電を検知するとブルートゥースで信号を送り、非常点灯するLEDシーリングライトを製品化している。JLMAでも性能基準を示すことで、業界内での活発な開発を促している。
非住宅分野でも明かりの質や防災といった観点は重要であるとともに、さらなる省エネ化も大事な視点だ。IoT化を生かし、時間帯によって最適な明かりで業務のパフォーマンス向上につなげることを目指す一方、人感センサー、照度センサーなどと連動して人のいないエリアは消灯したり、外の明るさに応じて照度を調整したりとさらなる省エネ提案にも力が入っている。ここでも軸になるのは、CSL&HCLに位置付けられる照明だ。
JLMAは、30年でCSL&HCLの出荷台数に占める割合を4割に高める目標を掲げている。現状は2割程度だが、各社が開発に力を入れている製品分野だけに、今後、構成は間違いなく増えていくはずだ。
コロナ禍や物価高など社会情勢の変化もあり、人々の趣味、嗜好(しこう)も変わりつつある。住宅、非住宅ともに空間演出で大きな役割を果たすのが照明であり、その価値が再定義される可能性が出てきたと言えよう。
画一的で差別化しにくいと言われていたシーリングライトでも、メーカーによるデザインの差が出始めている。技術の進化と社会環境の変化が照明を新たなステージに引き上げようとしている。