2022.10.21 【5Gがくる】ローカル5G簡単解説<107> アジャイルによるDX推進者の早期戦力化⑨
IT人材の所属先
情報処理・通信に携わるIT人材の所属先を見ると、日米で大きく異なることが分かる。情報処理推進機構(IPA)の「IT人材白書2017」によると、IT人材の所属先は、米国ではIT企業に所属する割合が34.6%で、それ以外の企業に所属する割合が65.4%であったのに対し、日本はIT企業が72%、それ以外の企業が28%だった。
この結果から、米国ではIT人材の多くがユーザー企業に所属しているといえるだろう。それに対して、日本ではIT人材の多くはIT企業に所属しており、ユーザー企業が保有するIT人材の数は米国の半分にも満たない。ある意味、日本のユーザー企業におけるITシステム開発の内製化率が米国に比べてかなり低いのは、当然かもしれない。
米国のユーザー企業では自社のIT部門に多くの技術者を抱え、ITシステムの要件定義から設計、実装、テストまでの開発、運用・保守を自ら行う。そのため、ITベンダーはシステムに必要なハードやソフトウエア製品を供給するだけの存在であり、SIer(システム構築企業)の存在も薄いと聞く。
一方で、日本のユーザー企業では要件定義とテストの一部に関わるだけで、システム開発のほとんど全てをITベンダーやSIerへ丸投げするケースが少なくない。
その理由は、雇用の形態にあると言われている。欧米では、ジョブ型雇用が一般的だ。業務内容や責任の範囲、スキルや経験などが明記されている職務記述書(ジョブディスクリプション)がベースとなる。
ユーザー企業においてシステム開発する際にも、必要なスキルを持つ技術者が雇用され、内製化プロジェクトがスタートする。プロジェクトが終われば技術者の雇用も終了するという流れになる。
しかし、日本はいわゆる終身雇用と呼ばれるメンバーシップ型雇用が一般的だ。人材を雇ってから研修し、与えた職務を通じてスキルや経験を身に付けさせている。
そのため、ITシステム開発の話が出てきてからITスキルを身に付けさせようとしても到底間に合わない。また、いつ始まるか分からないプロジェクトのためにあらかじめ技術者を育てたり、プロジェクトが終了したからといって解雇したりするわけにもいかない。そうなると、内製化をあきらめて技術者を外部に頼るしかなく、ITベンダーやSIerへ丸投げすることになってしまう。
DX実現の近道
ところが、デジタルトランスフォーメーション(DX)時代になった今は状況が全く違ってくる。自社のデータを活用して自社のビジネスを変革させるDXの場合は、丸投げすると失敗する確率が高くなる。なぜなら、DX推進者に求められるスキルと経験のうち最も重要なものが、「自社のビジネスに精通していること」「自社の機密データまで踏み込んで課題解決できること」だからだ。
つまり、日本のユーザー企業においてDXを推進する場合には、ワイヤレスIoTやローカル5G、データサイエンス、人工知能(AI)といったデジタル技術を活用できるDX推進者を内製化せざるを得ないということになる。
幸い、終身雇用が崩れジョブ型雇用が徐々に普及している今は、まさに「アジャイルによるDX推進者の早期戦力化」によるDX内製化が求められている。このことがDX実現の近道になるといえよう。(このシリーズおわり)
(つづく)
〈筆者=モバイルコンピューティング推進コンソーシアム上席顧問。グローバルベンチャー協会理事。国士舘大学非常勤講師・竹井俊文氏〉