2023.01.12 【計測器総合特集】横河計測、多様化するモーター・インバーター評価技術
写真1 高精度電力アナライザWT5000
電力効率を高精度、多角的に計測
昨今、2030年のCO2排出削減目標達成に向けて、政府と産業界の取り組みがますます活発化している。とりわけ電気自動車(EV)をはじめとするゼロエミッション車(ZEV)の普及は、その目標達成への貢献が最も期待される分野の一つだろう。この分野で排出削減効果をより高めるため、業界各社が特に注力しているのが高効率なモーター・インバーターの開発。電力からトルクを高効率で生み出せるモーター・インバーターの採用は、製品自体の排出量を削減するだけでなく、より長い連続走行距離の実現によるZEV普及率の向上にも貢献するからだ。
モーター・インバーター計測の課題
この高効率モーター・インバーターの開発には、電力効率の高精度かつ多角的な評価測定が欠かせない(図1)。例えば、消費電力の評価時には、モーターの安定動作時のみならず、加速・減速時の過渡的な瞬時電力や電圧、電流波形の観測も重要となる。
また、モーターの広い動作領域の検証には、トルクや回転数、そのほかのセンサー信号、制御データの同時計測も必要とされる。さらにはパワートレインの振動、ひずみ、機器の表面温度などメカニカルな要素も動作効率に大きく関わるため、評価計測に求められる多様性は高まる一方である。
通常、このように多角的な計測評価を行うためには、大規模な専用計測システムの構築が不可欠である。しかしながら、それらに伴う大規模な投資と長い構築期間、柔軟性の低さは昨今の商品開発サイクルの速さに適合しにくいという課題がある。
統合計測ソリューション
この課題に対し、国内の計測器老舗メーカーである横河計測では、自社の高精度かつ多様な複数の専用測定器とソフトウエアを組み合わせた「統合計測ソリューション」での解決を提案している。
専用計測器を組み合わせたソリューションを採用するメリットは次の三つである。
①各計測器は単体の専用計測器としての校正サービスを受けることで、国際基準からのトレーサビリティーがとれた確度と再現性が保証された計測が行える。
②各計測器は単体としての利用や組み換えが行えるため、製品開発フェーズに合わせた柔軟なシステムの再構築が可能。
③標準品を中心としたシステム構築なので、ユーザー自身によるテスト設計の変更が容易。
これらは結果として評価測定データの信頼性を高めるとともに、評価設備構築に対するコストとリードタイムの削減も期待できる。
高精度電力アナライザWT5000
前述のソリューションを実現する高精度単体計測器の代表例が、横河計測の高精度電力アナライザWT5000だ(写真1)。
世界最高クラスの電力基本確度プラスマイナス0.03%、直流電力確度プラスマイナス0.07%の実現に加え、最大7入力の同時電力測定への対応、最大4モーターのトルクと回転速度を同時測定できるオプションも用意されている。入力部にモジュール形式を採用したことで、測定対象電流の大きさや数に応じた入れ替えや追加が可能だ。
三相入出力などの多系統測定ニーズに合わせて搭載された2系統の高調波測定機能は、基本波成分に対し最大500次までの測定を可能とした。これにより、モーターの回転数からキャリア周波数の成分までの幅広い次数範囲での測定が可能となり、キャリア周波数によるモーター駆動への影響も確認することができる。
また、電力の積算測定機能を使うことで、変化が大きいバッテリーの充電と放電を極性別に測定することも可能だ。
スコープコーダDL950
YOKOGAWAのスコープコーダシリーズは、オシロスコープの高速サンプリングとレコーダの多チャンネル・長時間記録の両方の特徴を併せ持ったモジュール形式の高速データロガーである。
スコープコーダDL950は、最速200MS/sの高速サンプリングレート、最大16ビットの高分解能ADコンバーター、最長50日の長時間記録、および最大32ch測定を実現した同シリーズの最新モデルだ(写真2)。
各入力チャンネルが絶縁されているため、グランドレベルの異なる複数の信号を入力することが可能な上、耐ノイズ性も高く、現場での配線を簡単化できる。
入力モジュールには、熱電対、加速度センサー、ひずみセンサーなどに対応したものもあり、1台当たり最大8枚の入力モジュールを装着することで、多種多様な物理量を電気信号と同時に取り込むことができるのも特徴だ。さらに多くのチャンネルを同時に捕捉したい場合は、最大5台のDL950を接続するオプション機能を利用して、10MS/sの高速サンプリングで最大160chの同時測定も可能となる。
また、専用DSPによるリアルタイム演算機能を搭載しており、入力信号の各種単位変換やフィルター演算、電力演算の結果を測定信号と同時に表示・記録できるのが大きな特徴だ。演算結果に対してトリガーをかけることや、波形パラメーターの自動測定、カーソル測定をすることも可能だ。
ミックスドシグナルオシロスコープDLM5000
コンパクトなボディーとロングメモリー、操作性の高さが特徴のYOKOGAWAオシロスコープDLMシリーズの最新機種であるDLM5000シリーズは、1台にアナログ最大8chにプラスしてロジック32chの入力端子を備えた大画面オシロスコープ(写真3)。
最高2.5GS/sのサンプルレートとロングメモリーは幅広い用途の波形測定に応える。
さらには、新オプション「DLMsync」により、2台のDLM5000を連結した最大アナログ入力16chにプラスして、ロジック64chのオシロスコープとしての利用が可能だ。
例えば、三相モーターとインバーターの評価なら、インバーター内の六つのIGBTのスイッチング波形、ゲート制御信号および全相電流の全ての同時高速測定を実現する。
IEEE1588に準拠した時刻同期
これら各単体計測器の測定データの統合に欠かせないのが、国際規格に準拠した時刻同期機能である。
前述のWT5000、DL950およびDLM5000は、国際規格IEEE1588に準拠した高精度時刻同期プロトコル(IEEE1588PTP)に対応する。
各計測器がネットワーク上のPTPグランドマスターと高精度に時刻同期することにより、誤差数ナノ秒~マイクロ秒の精度で各計測器の測定データへ時刻情報を付与できる。
DL950は、このPTPマスター機能をオプションで用意しており、高額なグランドマスターサーバーを用意することなくネットワーク内の時刻同期環境の構築が可能だ。
統合計測ソフトウエアプラットフォームIS8000による解析表示
そして、これらの高精度計測器の制御と測定データの統合解析をシステム構築なく実現するのが、IS8000統合計測ソフトウエアプラットフォームである(写真4)。このソフトウエアは、先述のIEEE1588 PTP規格で時刻同期されたWT5000、DL950、DLM5000の各測定データを、同一時間軸上で表示・比較・解析することが可能だ。
加えてIS8000は前述の測定データと、高速度カメラや赤外線カメラの動画、ECU制御ソフト検証ツールによるインバーター制御データを同期表示するオプションも備えている。
WT5000で測定したバッテリーからモーターまでの電力変換効率、モータートルク、回転数、回転角と、DL950で測定したインバーターのスイッチング電圧、電流、モーター振動、発熱、音声ノイズ、DLM5000で測定したIGBTゲート信号に加え、ECUによるインバーターの制御タイミングと電力損失で生じる発熱の赤外線画像も同じ時間軸上で表示・比較できるため、電力変換の損失要因と対策の視覚化が可能となり、結果として評価時間を大幅な短縮を実現する。
脱炭素社会の実現に貢献
今後もモーター・インバーター計測へ求められるニーズは高度かつ多様化していくと考える。横河計測は、計測技術を通してより多くのニーズに応え、脱炭素社会の実現に貢献できるよう努めていく。〈筆者=横河計測〉