2023.01.13 【放送/機器総合特集】放送・メディア業界にDXの波が押し寄せる

 放送・メディア業界にデジタルトランスフォーメーション(DX)の波が押し寄せている。テレビからインターネット(動画配信、SNSなど)の時代において、メディア・放送業界の在り方が大きく変わってきている。また、視聴者のライフスタイルの変化によって、テレビ視聴スタイルも変化しており、コンテンツの多様化も進んでいる。

映像制作現場のDX加速化

 特に、コロナの影響によって、映像制作現場では働き方改革が求められており、IPや人工知能(AI)、クラウドを活用した業務の省人化・省力化という「現場のDX」が加速している。

 昨年はIPとクラウドの時代を迎え、放送機器メーカーからはIPとクラウドを活用したさまざまなソリューションが提案された。撮影から配信までのワークフローの自動化や省力化、業務効率化を実現する。

 撮影現場からクラウドに映像を送り、クラウド上でスイッチングやミキシングを行い、再度クラウドを経由して視聴者にストリーミング配信する。同時に複数で作業ができるとともに、映像制作のワークフロー全体をシームレスに、リアルタイムにつなぐことで、時間や場所に制約されない柔軟かつ機動的な共同作業と多彩なライブ演出を可能にする。

 昨年のInterBEEでも放送システムのIP化・クラウド化に向けた各社の取り組みが目立った。IPの世界になるとパートナー各社との連携も重要だ。同展ではメーカー・ベンダー40社が協力し、各社機器がIP標準規格で相互接続を見せた。

バーチャルプロダクション

 映像コンテンツの価値をさらに高める新たな表現・制作手法として、さまざまな技術開発も進んでいる。現実世界と仮想世界を融合することで現実にはないものを知覚できる技術として、「XR(クロスリアリティー)」とともに、LED大画面を背景に演者を一体撮影するインカメラVFXの撮影手法である「バーチャルプロダクション」も注目を浴びている。

 バーチャルプロダクションは、ロケ地や天候の制約を受けないことで、ポストプロダクションでの作業が短縮され、コスト削減にもつながる。また、プロダクションの制作手法のPX(映像制作トランスフォーメーション)にも寄与できる。

 こうしたテクノロジーを活用し、映像制作のワークフローにおける「温室効果ガス削減」と「プロセス効率化」を実現するPXサービスは、さまざまなニーズに対応する新たなサービスの開発・提供にも注力する。これらにより、これまでコンテンツ制作で使われた美術セットなどの廃棄物を減らすことなど、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けての貢献にもつながると期待されている。映像制作において、低予算からハイエンドの案件まで、幅広く利用できる新しい映像制作の在り方が提示されている。

 現在、インカメラVFXスタジオは、ソニーPCL「清澄白河BASE」や松竹の「代官山メタバーススタジオ」、ヒビノの「Hibino VFXスタジオ」など、国内でも徐々に増え始めている。今後、インカメラVFX技術が、どこまでリアルに表現できるかにも注目したい。