2023.02.02 【コンデンサー技術特集】ルビコン 導電性高分子アルミ固体電解コンデンサーハイブリッドタイプの技術動向

【写真1】PKV/PZKシリーズ外観

はじめに

 アルミ電解コンデンサーは、自動車、情報通信関連、産業機器および省エネ家電製品などの成長分野を中心に需要を伸ばしており、それに伴い技術的なニーズもますます高度化している。

 自動車は百年に一度の大変革期に入っている。その変革の一つである電動化は、さらに急速に進み2040年にはエンジン車はEVの半分になるという見方も出てきている。電動化により電子制御ユニット(ECU)の搭載数が増加し、1台に使用されるコンデンサーなどの電子部品の数は増加してきている。ECUに使用されるコンデンサーには今まで以上に小型・高容量化、低ESR(等価直列抵抗)、高リプル電流への対応が強く求められている。

 情報通信分野では、第5世代移動通信システム5Gの普及により、自動運転の普及やリモートによる遠隔医療などの運用が広がり始めている。通信規格5Gのカバーエリアは、電波特性の違いにより4Gに対して狭いため、より多くの基地局が必要となっている。基地局は都市部をはじめ気象環境が厳しい隔地に至るまで広範囲での設置が必要で、基地局の機器には過酷な設置環境を想定したメンテナンスフリー化や防塵(じん)防湿防虫対応した設計が施されている。その機器に搭載される電子部品には、小型化、高温度化および長寿命化が求められている。

 当社では、これらの高度な技術要求に対応するため、従来の導電性高分子アルミ固体電解コンデンサーを独自開発した機能性液体を付加し高性能化したハイブリッドタイプを上市し、これまで車載や産業機器分野などを中心に機器の高性能化に貢献してきた。本稿では、高性能化が進められている導電性高分子アルミ固体電解コンデンサーハイブリッドタイプの技術動向と当社開発製品について紹介する。

導電性高分子アルミ固体電解コンデンサーハイブリッドタイプの概要

 当社の導電性高分子アルミ固体電解コンデンサーハイブリッドタイプは、従来のアルミ非固体電解コンデンサー(以下電解コンデンサーと記す)と同様に、素子、封口ゴム、アルミケースから構成される。素子はアルミ酸化皮膜(誘電体)を有する陽極箔(はく)と陰極箔をセパレーターで介した巻回形状であり、おのおのの箔には電極の引き出しリード端子が接続されている。この素子に真の陰極となる陰極材料(電解質)を形成させ、封口ゴムとアルミケースにより封止されている。

 電解コンデンサーは、陰極材料に電解液を使用しており、アルミ酸化皮膜の修復性能が優れるため高耐電圧の製品が実現可能である。しかし、電解液は電気伝導度が低く温度依存性が高いため、コンデンサーのESRが高く低温領域における特性変化が大きいという課題がある。

 導電性高分子アルミ固体コンデンサーは、陰極材料に電子伝導性に優れた導電性高分子を使用し、低抵抗、高リプル電流、優れた温度特性を実現している。近年では、導電性高分子と電解液などを陰極材料に用いることで固体コンデンサーの課題であったアルミ酸化皮膜の修復性を補ったハイブリッドタイプのコンデンサーの採用が急速に広まってきている。

 当社の導電性高分子アルミ固体電解コンデンサーハイブリッドタイプは、陰極材料に導電性高分子と独自開発した機能性液体を採用している(図1参照)。導電性高分子には、電気伝導性と耐熱性に優れたPEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)を用いており、PEDOTの導電機構は電子伝導で、イオン伝導の電解液に対して、電気伝導度は数千倍以上を有している。これにより、コンデンサーのESRを大幅に低くすることができ、リプル電流重畳時の製品の自己発熱を抑え、許容リプル電流の向上が可能となる。さらに、PEDOTの熱分解温度は300℃以上となるため、広い温度範囲で安定した電気特性を得ることができる。

【図1】当社ハイブリッド技術

 また、導電性高分子がコンデンサー素子内部へ効率よく充塡(じゅうてん)し、形成する工程を採用することで、PEDOTの優れた特性を最大限に引き出している。

 独自開発した機能性液体は、一般的な電解コンデンサーで使用する電解液とは異なる性能を有している。熱安定性が高いため封口ゴムからの蒸散量が低く、製品のドライアップを抑制することが可能である。また、導電性高分子とのマッチングを考慮した配合としているため、化学的安定性が優れている。これにより、当社の機能性液体は導電性高分子の劣化を抑制しながら、アルミ酸化皮膜を修復する機能も兼ね備えている。

 上記技術を組み合わせることで、電解液を採用しているハイブリッドコンデンサーより高温環境下において優れた電気特性を長期間安定して維持することが可能となり、図2および図3のように低温から高温まで安定した特性と、高温で長期間使用されても特性変化の少ない性能を維持していることが分かる。

【図2】ハイブリッドタイプと電解コンデンサーの温度特性比較
【図3】PKVシリーズ耐久性試験結果(125℃ Life)

新製品PKV/PZKシリーズの特長と製品概要

 車載、情報通信機器および産業機器分野を中心に、搭載セットの小型化、高性能化、高信頼化の要求が高まっている。コンデンサーには、高密度実装に対応したさらなる小型・高容量化と厳しい環境下での安定した製品性能が求められている。特にアルミ電解コンデンサーや導電性高分子アルミ電解コンデンサーは、コンデンサーの中で高容量化がほかのコンデンサーに比べてたけており、これらのコンデンサーの小型化、高容量化の期待は大きい。当社では、このような要求に対応するため、従来製品PJV/PZJシリーズに対して約20%の高容量化を実現したチップタイプのPKVシリーズとリード線タイプのPZKシリーズを開発した(表1・表2・写真1参照)。

【表1】PKV/PZKシリーズ概要
【表2】開発品と従来品の特性比較

 PKV/PZKシリーズは、当社独自のハイブリッド技術により、高温環境下でも安定したESR特性を維持することを実現し、業界トップレベルの定格リプル電流値を確保した。また、コンデンサーの高容量化は従来以上の高倍率箔を採用する必要があるが、高倍率化することで、①箔の強度が低くなり量産性が低下する②エッチングピット細部まで導電性高分子を充塡することが難しくなり、コンデンサーとしたときの電気的特性が想定通りに表れない、といった懸念事項があった。そこで当社では、箔とリード線端子の取り付けおよび箔と電解紙の巻き取り時のストレスを大幅に軽減した高性能巻取機を導入し、導電性高分子の充塡性を自社開発の設備で最適化を図ったことで、高品質で業界最高水準の高容量化を達成した。PKV、PZKの性能は、図3に示すように高温で使用されても安定した特性が維持されており、また、表2に示す通りESR、定格リプル電流、耐久性といったスペックを維持したまま、従来シリーズより高容量化が図られている。

今後の展望

 世界的なカーボンニュートラルの取り組みにより電源のコントロールなどを担うパワー半導体は、従来のSiから電力損失を大幅に抑えることができる次世代素材SiCやGaNへ置き換わりつつある。次世代半導体は、自動車、産業機器および一般家庭用デジタル機器などの幅広い分野に展開されることが想定され、コンデンサーの需要はさらに拡大が期待されるとともに、高性能化の要求もこれまで以上に厳しくなることが予想される。

 当社の導電性高分子アルミ固体電解コンデンサーハイブリッドタイプでは、今後もさらなる小型・高容量化、高リプル電流化、長寿命化および高耐熱化の開発を加速して進めていく計画である。中でも、高リプル電流対応の実現は、実装基板における電子部品の高密度化が進む中で、コンデンサーの員数削減による省スペース化に大きく貢献することが期待される。この実現に向けて、導電性高分子の優れた性能をこれまで以上に引き出す製造条件の最適化と機能性液体の開発により、当社ハイブリッド技術のさらなる向上を図る。また製品の放熱性を向上させる構造設計や新規材料の採用、製品のサイズバリエーションの拡充による高容量、高リプル電流化を実現する要素技術開発を進め、新製品を早急に市場へ導入していく予定である。
 〈ルビコン(株)技術本部 技術部〉