2023.02.16 プリアンプやオーディオ関連ラインナップ SUNVALLEY AUDIO大橋慎店主に聞く〈3〉

《写真1》SV-Pre1616D

管球アンプキットブーム再び

 ―前回から少し間が空いてしまいましたが、パワーアンプ類のお話は伺ったので、プリアンプやイコライザーアンプ、D/Aコンバーターなどの周辺機器について伺いたいと思います。まず、プリアンプの「SV-Pre1616D」(写真1)ですが、管球アンプキットブームを再び作り出したといわれるほど評判が良いと聞いています。どのような点がユーザーに支持されたと思いますか。

真空管の組み合わせを変えて差し替え可能

 大橋慎店主 まず、一番目に全ての真空管を差し替え可能としたことだと思います。しかも、増幅度(μ)が異なる型番の真空管、「12AX7」と「12AU7」を混在して差し替え可能で、これができる世界初の製品ではないかと思います。例えば、全てを12AX7とすれば、シャープで高コントラストなSV-722マランツタイプと似た音質になりますし、前段二つを12AX7とし、3段目を12AU7としたものは、同マッキンタイプの音のイメージに近いものにできます。さらに全段12AU7とすれば高級機SV-310のような豊な倍音感が得られます。

 ―これらの真空管の組み合わせでの動作保証と諸特性を担保しているところも、素晴らしいと思います。ほかにも支持される部分がありますね。

 大橋店主 増幅部は手配線なので、カップリングコンデンサーなどを自分の好みのものに差し替えたりできますし、標準はダイオード整流ですが、5AR4や274Bなどの整流管に差し替えできます。

国産真空管のセットも

 ―自分の好みに合ったアンプに仕上げられますね。真空管は松竹梅のセットで販売されていますね。

 大橋店主 イコライザーもそうですが、さまざまなメーカーの新旧織り交ざった真空管がある中で、ユーザーに手軽に選んでいただけるように予算別に真空管別のセットをご用意しています。

 ―ハイグレードの松では、増幅管に国産の東芝製(写真2)をセレクトしていますね。

《写真2》東芝製の12AU7

 大橋店主 mt管に限らず、海外製ビンテージ管の人気は高いのですが、海外製の品質の高い真空管は年々その数が減少し入手困難となり、価格も高騰しています。あるとき海外の愛好家から、「君たちは必死にヨーロッパ製などの海外管を探しているようだが、全盛期の日本製真空管の素晴らしい音に気付いていないのか」といったコメントを頂いたことがありました。確かに真空管全盛期に製造された国産真空管も海外製に決して引けを取りません。そこで、東芝製の未使用長期保存品をセット販売することにしました。

 ―そういう理由があったのですね。確かに全盛期の品質の良い国内管は聴くと、上質で日本製らしい、端正な音がしますね。

 大橋店主 とはいえ、国産でも高品質なものの数は限られているので、キットとのセット販売の「松」セットとしているわけです。

300B使用の特別なプリ

 ―サンバレーさんのプリアンプで特徴的というか、豪華な布陣としてあの「300B」を使った「SV-300LB」(写真3)がありますね。

《写真3》300Bを増幅に使ったプリアンプ「SV-300LB」

 大橋店主 あの300Bの馥郁(ふくいく)とした音色を得られるプリとして、7年がかりで試作を繰り返し完成させました。トランス出力で平衡出力600Ωが可能ですが、845を使ったブースターアンプ「SV-284D」を直接ドライブできるハイインピーダンス出力を備えています。ウェスタンエレクトリック(WE)純正復刻管が安定的に入手できるようになった今、ハイエンドマニアに注目されるプリとなっています。

オールWE仕様球で固めたプリ

 ―ハイエンドといえば、310Aや274BなどPSVANE WE仕様球で固めた「SV-310」(写真4)も魅力的ですね。

《写真4》PSVANE WE仕様球で固めた「SV-310」

 大橋店主 SV-310もトランス結合を利用したビンテージ的な音色を持つプリですが、カットコアトランスをぜいたくに使用した600Ωの出力をもっています。トランス結合ですが、ハイレゾにも対応する広帯域な周波数特性があります。広帯域といっても冷たい音ではなく、適切な温度感、基音と倍音の最上のバランスを獲得した音と自負しております。

イコライザー特性が可変可能なフォノEQ「SV-EQ1616D」

 ―1616型番のキットというと、最近の各社のアナログプレーヤーの新製品発売でフォノイコライザー(EQ)の「SV-EQ1616D」(写真5)も注目を集めていますね。

《写真5》フォノイコライザー「SV-EQ1616D」

 大橋店主 MCヘッドアンプも内蔵して、RIAAカーブ標準化以前のイコライジングカーブにも対応したものとしては、かなりリーズナブルなものだからでしょう。海外で特に人気があります。

 ―RIAA以前のカーブに対応させたというのはどのような経緯からでしょうか。

 大橋店主 1616シリーズの開発理念である「イロイロ」を満たすためSP盤までもカバーする、ほぼ全てのEQカーブに適合するだけでなく最高の音質で楽しんでいただくことを狙ったためです。

 ―「SV-EQ1616D」はRIAA以前のEQカーブをかなり正確に合わせ込んでいますね。

 大橋店主 これまでのフォノEQでは見られないほど、高域ロールオフとターンオーバー周波数をフルディスクリートで正確に可変できるようにしています。RIAA以外の各種録音特性(EQカーブ)に適合させているのはもちろん、システムに合わせてロールオフ機能を使い、トーンコントロール的に最適音質にアジャストできるところは、ほかの機種では見られないと思います。

SV-284Dシリーズを完結させる「SV-396EQ」

 ―完成品のフォノEQもいくつか出されていますね。「SV-396EQ」(写真6)は、どのような位置付けでしょうか。

《写真6》フォノイコライザー「SV-396EQ」

 大橋店主 「SV-396EQ」は、SV-284Dシリーズ用のEQとしての位置付けですが、当社のEQの標準機(スタンダードモデル)でもあります。音質に定評のあるCR型イコライザーを採用。mt管でコンパクト化を図り、SV-284Dだけでなくあらゆるアナログ再生システムにフィットするスリムでスタイリッシュなデザインにしています。

 ―MC対応には橋本電気の「HM-3」トランスを使用していますね。

 大橋店主 MCトランスは音質に大きな影響を与えるので高品質なものを採用しています。プレーヤーを複数台所有のお客さまにも対応すべく2系統の入力も備え、MCもハイとローの2ポジション備えています。

WE仕様のEQ

 ―価格的には、「SV-310EQ」(写真7)の方が高いですね。

《写真7》初段にPSVANEのWE310Aを使った「SV-310EQ」

 大橋店主 「SV-91B」や「SV-310」などと同様に初段にPSVANE WE310A(2本)を使用しているほか、そのほかの真空管として、Tesla ECC88や整流管には PSVANE WE274Bなど非常に評価が高いものを厳選して使用しています。そのため、お値段的にも高価となっております。やはり、ビンテージサウンド的味わいを楽しむためには、それ相応のものを使う必要がありますが、その繊細かつ芳醇(ほうじゅん)な音を聴けばご納得いただける価格だと思います。

プロの現場でも使われているUSB D/Aコンバーター「SV-192PROII」

 ―これまでキットを中心に一般ユーザーを対象に製品を出されてきたサンバレーさんですが、D/Aコンバーター「SV-192PROII」(写真8)は少し違っていますね。

《写真8》D/Aコンバーター「SV-192PROII」

 大橋店主 まず、初期デジタル録音の状況についてご理解いただけないと、この点の説明が難しいのです。最初の実用デジタル録音フォーマットは量子化ビットが13ビット、標本化周波数が47.25kHzでした。その後、CDが出るとそれらが、16ビットの44.1kHzとなりましたが、いずれにしても今のデジタル音源と比べかなり粗いスペックです。このようなフォーマットで当時のデジタル録音やアナログ録音のデジタル化が進められていたので当然、現在のものと比較すると情報の欠落が多く、後年、それらの音源を改めて市場に投入しようとしたとき、音質的に問題となることが多々ありました。つまりデジタル領域で音質を改善、もう少し突っ込んでいえば少しでも元の状態に復元できないかと考えた末、たどりついたのがアップサンプリング(サンプリングレート、ビット深度の伸長)という考え方であったわけです。

 ―「SV-192PROII」がアップコンバーターと呼ばれることがあるのはこのためですね。

 大橋店主 そうです。標準CDフォーマットを192kHz 24ビットまで拡張できるところが本機の特長で、真空管バッファーの効果もあり、初期のデジタル録音を聴きやすくアップコンバートできます。1980年代音源の再販時のリマスタリングにSV-192PROIIを使っているスタジオも少なくありません。

 ―使用しているDACチップも音質に定評がありますね。

 大橋店主 Burr-Brown(バーブラウン)「PCM1792」を使用しています。以前のモデルからですが、アドバンスト・セグメント方式のDACとしての業界最高水準の高音質を保持しています。

 ―プロユースにも使われるだけあって、AES/EBUやXLRでの平衡出力など多彩な入出力をサポートしていますが、外部クロック入力とその使用モードが多彩で驚きます。

 大橋店主 アップサンプリングで音質が向上するという認識は、このSV-192シリーズの普及で広まった感があります。同じようにマスタークロックの高精度化が音質に及ぼす影響もSV-192では実感されてきました。通常はSV-192の内部クロックを使う「Internal」モードですが、上流機器のクロックに同期する「Singal」、外部のマスタークロックジェネレーターを接続して使う「External」の各モードがあり、場合によって使い分け最適の音質を得られます。Externalモードでクロック入力を接続しないと、パススルーモードとなり、ソースのクロックに同期させることもできます。

アップサイクルを目指す、自社中古製品の販売

 ―多彩かつ高音質なD/Aコンバートが可能ですね。最後に今後の取り組みなどをお話しいただけたらと思います。

 大橋店主 ここ数年、古くからのユーザーさまからオーディオ製品の断捨離(買い取り)のご相談を受けることが多くなりました。特選中古品の販売は(写真9)、そのような自社オーディオ製品などを確実に次の世代のユーザーに引き渡すことを目的に始めました。

《写真9》特選中古品の販売のアナウンスページ

 ―ユーザーの方の家族には管球オーディオの知識が少ない方もいらしゃるので、これは重要ですね。

 大橋店主 知識のない方が貴重な真空管を搭載したアンプを粗大ごみに出してしまったり、不十分な整備状況でリサイクルショップに渡ってしまうケースが多々あることを私どもも大変憂慮していました。当社製品に限らず一部の管球アンプやオーディオ製品は文化的にも価値あるもので、それらを後の世代に伝えていくのは重要だと思います。その意味でリサイクルではなくアップサイクルという考え方で丁寧に整備を行い、販売しています。

 ―自社の製品が中心とはいえ、キット製品はそのコンディションもさまざまだと思います。整備は手間がかかりませんか。

 大橋店主 そうなんです(笑)。場合によっては、ほぼ組み直しになる機器もあるので、販売前の数日は深夜まで作業することもあります。ただ、再販売するからには、キチンと整備を行い(写真10)、できるだけ完全な状態で出せるようにしています。

《写真10》整備の様子

 ―新しいアップサイクルの取り組みを今後もぜひ続けていただきたいと思います。どうもありがとうございました。               (おわり)