2023.11.24 【育成のとびら】〈15〉「仕事の任せ方2.0」とは――つまずき予告で、部下の経験学習に有意差

 連載第12回からのシリーズでは、管理職の部下育成についての課題とその解決のヒントを紹介してきた。前回(第14回)は、部門の目標や計画を達成している管理職ほど、「部下の成長を実感している」と答える割合が高いことが分かった。

 では、部下の成長を促すには、管理職はどのように関わるべきなのだろうか。当社ラーニングエージェンシーの管理職向け研修の受講者1715人から回答を得た意識調査の結果から、部下と上司のコミュニケーション時間との関係を見ていきたい。

 まず、部下との月間のコミュニケーション時間についての回答結果を見ると、「部下が非常に成長している」と答えた管理職は、仕事の報告以外のコミュニケーション時間が月21時間以上という回答が14.0%と、ほかの層より多かった。

 その一方で、コミュニケーション時間が「2~5時間程度」と回答した管理職の場合は、「非常に成長している」と答えた割合(38.6%)と「成長していない」と答えた割合(35.3%)がそれほど変わらなかった。

 部下が非常に成長している管理職においては、特に長い時間コミュニケーションをとっている割合が高いという特徴はあるが、コミュニケーション時間が短くても成長につながるケースは十分あるようだ。

つまずき予告有効

 一人一人の部下とのコミュニケーション時間をより長くとりたいものの、現実的にはなかなか難しいという管理職も多いだろう。たとえ短い時間であってもコミュニケーションの質を高める工夫をすれば、部下の成長をより促すことができるのではないだろうか。

 例えば、部下に仕事を任せるという場面において、その伝え方次第で部下の成長が変わるというデータがある。ここでは当社と東京大学との共同研究「中小企業の人材育成実態調査プロジェクト」で開発した「任せ方2.0」を紹介したい。

 任せ方2.0は、四つのステップに分解し進めていく。

 ①意義付け(目的)

 任せる仕事について、取り組む本人にとっての意義と、組織における意義(貢献)を伝える。

 ②つまずき予告

 意義がある仕事であるが、うまくいかない可能性や思うようにいかない難しさがあることを伝える。例えば「部門間をまたいだ事業なので、各部門の調整に苦労するかもしれない」「初めて取り組んでもらう業務なので、新しい知識が必要」など、予測できるつまずきを前もって伝えることで部下の不安を軽減でき、実際にトラブルなどが発生した際も冷静に対応できる。

 ③再度意義付け

 つまずき予告を経て、個人に対しての意義付けを再度行う。

 ④自己決定

 つまずき予告、意義付けを行った上で、部下自身に、依頼した仕事に取り組むかどうか決定してもらう。自律性を促すことによって、前向きに取り組みやすくなる。

 任せ方2.0を実践した管理職の部下は、そうではない管理職の部下に比べて、経験学習に大きな有意差が見られた。なぜその業務を行うのか、なぜ自分がアサイン(任命)されたのか、納得できれば、仕事に対する責任感が増し、困難なことがあっても前向きに取り組むことができる。

 ちなみに、2ステップ目のつまずき予告は、Z世代の指導にも有効だ。Z世代は外食先やアルバイト選びまで、さまざまな情報をあらかじめスマートフォンで調べるのが当たり前。ネガティブな要素も含めて事前に情報を把握してから、実行に移す「事前学習」を好むため、つまずき予告は彼らが安心して仕事に取り組む上で重要なステップになる。

 このように、仕事を任せるという何げないコミュニケーションにおいても、効果的な伝え方を意識するか否かで部下の成長が変わってくる。

 管理職がビジネスコミュニケーションスキルを学ぶことによって、部下にとっても、管理職にとっても、そして組織全体にとっても、望ましい変化が表れてくるのではないだろうか。(つづく)
 〈執筆構成=ラーニングエージェンシー〉

 【次回は12月第2週に掲載予定】