2024.01.18 【情報通信総合特集】2024市場/技術トレンド GX

デジタル技術で脱炭素
ICT各社が存在感発揮へ

 脱炭素化を経済成長につなげる「グリーントランスフォーメーション(GX)」を促す機運が高まっている。きっかけは、2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を達成するという日本政府の宣言だ。GXに向けた取り組みの成否が日本経済の競争力に直結する時代に突入する中、それを支援するICT各社の存在感も一段と増しそうだ。

 世界各国が気候変動の問題を話し合う国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)が2023年11~12月にアラブ首長国連邦(UAE)で開かれ、「化石燃料からの脱却」に合意する成果文書が採択されて閉幕した。

 これに伴い脱炭素実現に向けた本気度が各国に試される中、ICT各社が世界のGX関連市場で存在感を発揮するチャンスも拡大。COP28の開催期間中には、日本企業が環境省主催の「ジャパン・パビリオン」に出展し、GX関連の取り組みをアピールした。

 出展したNECは、気候変動による悪影響を軽減する適応策へ民間資金を呼び込む金融スキーム「適応ファイナンス」を推進。適応策の価値をデジタル技術で可視化し、投資家が魅力を感じる経済価値へと転換する仕組みの実現を目指す。

 日本国内では、千葉県美浜区の幕張メッセで昨年10月に開かれたIT・エレクトロニクスの総合展示会「CEATEC」も脱炭素化を支援する技術やサービスを披露する舞台となった。出展した日立製作所は、地方自治体にも脱炭素社会づくりが求められる中で、自治体が約30年後の社会まで見据えて脱炭素に向けたロードマップを設計できるよう支援する取り組みを紹介した。

 そうした展開で威力を発揮するツールが人工知能(AI)を活用した「脱炭素シナリオシミュレーター」で、何万通りの中から「目指すべき未来シナリオ」を導き出してくれる。自治体はそのシナリオを参考に理想の自治体像を描く。既に日立は各自治体と連携し、事業化に向けた検討を推進中という。

 日立システムズも、カーボンニュートラルの実現を総合的に支援する取り組みに力を入れている。その一つが炭素会計プラットフォームサービス「Persefoni(パーセフォニ)」。財務や事業活動、サプライチェーン(供給網)に関するデータを入力することで、国際基準に則した形で二酸化炭素(CO₂)に換算した排出量を算定・可視化し一元管理できる。24年度中には、衛星データによるCO₂吸収量の可視化から、売買可能な温室効果ガスの削減効果を表す「カーボンクレジット」の創出から取り引きまでを支援する新サービスを提供する予定だ。これにより、国土の約7割を森林が占める日本の林業の活性化にも貢献する。

 日立ソリューションズは昨年夏、製造業の供給網の脱炭素化を総合支援する体制を強化すると発表した。日立グループや欧州企業などの各種サービスで構成される「サプライチェーン脱炭素支援ソリューション」を提供するもので、製品・組織や供給網を通じて排出されるCO₂の把握や予測からサプライヤー(部品メーカー)の評価までをトータルでサポートする体制を整えた。

 供給網を支えるサプライヤーから調達する購入品やその成分にまで踏み込み、製品のライフサイクル全体のCO₂排出量を正しく把握し可視化する作業は、複雑で多くの手間がかかる。そこで日立ソリューションズは、環境先進国ドイツの人工知能(AI)を用いてCO₂排出量を効率よく算出・可視化するソフトウエアを用意した。今後とも脱炭素化を後押しするサービスメニューを拡充する方針だ。

 GXを巡っては、官民投資を後押しする政府の支援も活発化している。経済産業省は昨年12月、今後10年間の「分野別投資戦略」を策定した。具体的には、鉄鋼や化学、自動車、蓄電池、半導体などの16分野について、GXの方向性と投資促進策を取りまとめた。

 幅広い業種の企業が直面する課題は、脱炭素化に貢献する取り組み以外にも拡大。資源の循環利用を促すサーキュラーエコノミー(循環経済)や生態系を保全する対応も求められるようになっている。こうした観点から持続可能な社会を目指す活動を「サステナビリティー・トランスフォーメーション(SX)」と呼び、GXとSXという二つの潮流が広がっている。

 富士キメラ総研がまとめた「SX/GX関連ITソリューション国内市場」の調査結果によると、30年度の市場は22年度比3.2倍の8498億円となる見通しだ。

 中でも注目される市場の一つが「脱炭素コンサルティングサービス」。カーボンニュートラルの実現に向けた現状把握や施策策定などを支援するサービスで、30年度に22年度比3.3倍の1300億円に拡大すると予想している。

 SX/GX関連市場が成長する背景には、事業が自然に及ぼすリスクと対策を開示するように求める国際組織「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)」の動きもある。TNFDが昨年9月に公開したフレームワーク(枠組み)に沿って情報を開示する機運も高まっており、NECや富士通などが情報開示を宣言している。