2024.01.17 【計測器総合特集】東陽テクニカ、EMC分野で事業を拡大 受託サービス担う計測センター展開

【写真1】筑波計測センター

幅広い分野にサービス提供
筑波計測センター、最大規模

 東陽テクニカは2024年1月1日、トーキンEMCエンジニアリングの全株式を取得してグループ会社化し、社名を「株式会社東陽EMCエンジニアリング」に変更した。東陽テクニカの主力事業の一つであるEMC(電磁環境両立性)分野でさらなる事業拡大を図る。

■国内3カ所に計測センター

 東陽EMCエンジニアリングは、1983年に設立後、40年にわたりEMC試験の受託サービス、EMC対策支援をはじめ、測定器校正、海外認証取得支援サービスなどを手掛けてきた。

 情報通信機器から車載機器、医療機器など幅広い分野におけるEMC試験の受託サービスを提供しており、つくば(茨城県)、三田(兵庫県)、川崎(神奈川県)の国内3カ所に電波無響室を備えた計測センターを保有、車載製品試験用無響室も整備している。

 3カ所の計測センターの中でも筑波計測センターは最大規模で、10メートル法電波無響室2基を含む電波無響室5基とリバブレーションチャンバー(RVC)、シールドルームを備えている(写真1、2)。10メートル法電波無響室は、ターンテーブルが直径5メートル、耐荷重が5トンの仕様で、事務機、産業機器、医療機器、建機など大型かつ重量の大きい製品の試験が可能である。

【写真2】10メートル法電波無響室

 これまでは、情報通信機器(サーバー、ストレージなど)の測定が中心だったが、IoT技術の発展とともに、パソコン周辺機器、事務機、エアコン、産業機器、医療機器、車載機器など幅広い分野で測定の需要が拡大している。車載機器試験用の電波無響室やRVCは、近年の自動車産業における電動化や自動化に対応すべく導入した(写真3)。稼働率は今後も伸びていくと見込んでいる。

【写真3】リバブレーションチャンバー

 また、関西計測センターは、ANSI C63.5 2006年版に適合する、サイズ30×20メートルのグランドプレーンを保有しており、国内では数少ないアンテナ校正サイトの一つであり、全国各地からの依頼に対応している(写真4)。EMC試験における計測器の測定確度を維持・把握するために必要とされる校正サービスにおいては、ISO/IEC 17025校正機関としてA2LA(米国試験所認定協会)より認定を受けており、信頼性の高い校正が強みである。

【写真4】アンテナ校正サイトとグランドプレーン

 認証取得支援サービスとして海外認証の取得も手掛けている。メーカーが電子機器製品または自動車など電子機器を搭載した製品を発売する前には、販売先の国や地域で定められたEMC規格に合致していることを試験し、認証を取得する必要がある。中でも、台湾経済部標準検験局(BSMI)については、01年5月に日本で最初の情報処理装置EMC試験所として認可を受けて以降、20年以上にわたりBSMIの認証取得サービスを展開している。製品サンプルを台湾へ送ることなく日本国内での試験が可能で、認証取得代行までの業務を一貫して対応している。

 東陽EMCエンジニアリングでは、台湾をはじめとした東アジア諸国の認証を中心にこの海外認証支援サービスも一つの要となっている。

■東陽テクニカはEMC試験ソフトウエアなどの自社開発や試験システムの構築を推進

 東陽テクニカもまた、国内でいち早くEMC分野に着目し、日本において自主規制が開始された80年代半ばから、約40年にわたり試験ソリューションを提供している。

 EMC試験を実施するにはさまざまな機器や設備の制御が必要で、試験エンジニアはその設定の煩雑さや試験結果の再現性の難しさに課題を抱えることが多い。こういった試験エンジニアの課題を解消するため、計測器の輸入販売だけでなく、ソフトウエアを自社開発し試験システムを構築、自動測定可能なターンキーソリューションも提供している。

 ソフトウエアの自社開発は、89年に最初の標準ソフトウエア「EP-T1」を手掛けたところから本格的に始まる。試験ニーズや規格の更新といった変化とともに進化を続け、東陽テクニカが提供するEMC試験システムの中枢を担う製品である。18年からは規格ごとに最適化した新モデル「EPX」「ES10」および「IM10」シリーズを順次開発、発売しており、最新の測定機器に搭載された最先端の測定手法を開発し、試験エンジニアの経験値を問わず短時間で信頼性や再現性の高い測定を可能にしている(写真5)。

【写真5】「EPX」

 また近年では、長年の経験とAI(人工知能)やDX(デジタルトランスフォーメーション)といった新しい技術を融合し、電磁ノイズ対策アシストソフトウエア「EMINT」を開発した(写真6)。これは、EMC対策に関するノウハウを企業内に蓄積し、組織内での共有を促進することで製品開発における課題の一つである後継者育成を支援する製品となっている。

【写真6】電磁ノイズ対策アシストソフトウエア「EMINT」

受託校正を年間約7000件実施
子会社と一体化で、利便性高いサービス

■EMC試験において、利便性の高い試験環境の提供を実現

 メーカーは製品の認証取得のため規格で決められた基準を満たす試験設備でEMC試験を実施する必要がある。

 大手メーカーでは自社設備として保有しているところが多い一方、自社設備では賄いきれないニーズがある場合もあり、設備の整備には多大なコストがかかることから、外部の試験設備で実施する場合も少なくない。

 今後、東陽テクニカが提供する試験システムを導入したメーカーは、自社試験設備と同じシステムを、東陽EMCエンジニアリングの計測センターにある試験設備においても使用できるようになる。これにより、試験環境の違いによって試験結果が異なって抽出されるというリスクを軽減でき、効率的な開発が可能となる。また、設備の新規導入を検討する際、事前に東陽EMCエンジニアリングの試験設備で試用した上で導入の意思決定ができる。

■国際認証の校正機関として認定校正サービスの規模拡大を目指す

 校正サービスについても東陽テクニカも長年手掛けており、キャリブレーション・ラボラトリーは、東陽EMCエンジニアリングと同じく、ISO/IEC 17025校正機関としてA2LAから認定を受けている。精度の高い受託校正は顧客の支持も高く、年間約7000件実施している。今回、東陽EMCエンジニアリングの校正サービスと一体化することで、今後はより多くの種類の機器やアンテナの校正を一貫して対応できるようになる。

 さらに利便性の高いサービスを提供することで、グループとして校正サービスの規模拡大を図っていく。

■EMC試験の新需要に応え事業を拡大

 IoT技術の発展や、自動車産業における電動化、自動化に向けた技術革新により、EMC試験の需要はさまざまな産業で今後も増え続ける一方、多様化、複雑化するだろう。

 およそ40年にわたりEMC分野のリーディングソリューション・プロバイダーとして事業展開してきた東陽テクニカは、EMC試験の受託サービスを展開してきた東陽EMCエンジニアリングがグループ会社となったことで、両社の長年の知見を共有し、EMC試験の新たな需要に応え、さらなる価値を生み出し、事業拡大を推進していく。

 〈筆者=東陽テクニカ〉