2024.03.08 【育成のとびら】〈21〉管理職を引き受けた理由 男性は「認められる」「昇進したかった」から、女性は…

 近年、多くの職場で仕事の難易度が相対的に高まっていると言われている。特に管理職は、部下育成やチームでの成果創出、労務管理、コンプライアンス(法令順守)の徹底など、役割の幅が広がっている。そうした中、管理職の役割や職責の重さを負担に感じ、「管理職になりたくない」という若手もいる。

 では、打診された役職を引き受けた管理職は、どのような理由で昇進を受け入れたのだろうか。また、その理由に性別による違いはあるのだろうか。

 中原淳氏(東京大学准教授=当時、現・立教大学教授)と当社ALL DIFFERENTが共同で、働く男女7492人を対象に行った大規模調査の中からポイントを探ってみたい。

 マネジャー職の男性1126人と女性245人に、役職を引き受けた理由を聞いたところ、いくつかの回答において男女で差が表れた(図)。

 特徴的だったのは「社会・会社に認められることだから」「もともと昇進したかったから」「金銭的なメリットが得られるから」と回答した割合は男性の方が高い一方で、「直属の上司に説得されたから」と答えた割合は女性が高かったことだ。

 このデータから、男性はもともと昇進にポジティブなイメージを持っていることが読み取れ、昇進に対し前向きに捉えているといえる。

 それに対し、女性は、上司の説得・説明によって受け入れている割合が高く、昇進に対しポジティブな捉え方をしていないといえるだろう。

任命理由の説明

 では、昇進任命の際、女性の背中を押してくれる「上司のコミュニケーション」とは一体どのようなものなのだろうか。

 思い出したいのが本コラム15回目で解説した「仕事の任せ方2.0」だ。ここでは①意義付け(任せる仕事についての意義と組織への貢献を伝える)②つまずき予告(予想されるつまずきや難しさについて予告)③再度意義付け(つまずき予告を経て個人に再度意義付け)④自己決定(部下自身による決定)-の四つのステップを示した。

 これは、業務アサイン(任命)だけでなく、役職アサインにも転用できるのではないだろうか。

 特に最初の段階で、「なぜあなたが選ばれたのか」という丁寧な説明が重要だ。もともと昇進にポジティブな印象を持っていない女性の場合、今までの努力や成果に対する「報酬」として昇進を打診してもピンとこない。

 「どんな役割を期待しているのか」「なぜあなたが適任だと思ったのか」という任命理由の説明を受けることで、管理職となる意義が理解でき、就任後の役割についても理解が深まる。

役割移行を支援

 多くの企業が女性管理職の増加に懸命に取り組んでいるが、組織にとって女性管理職を増やすことが最終的なゴールではない。管理職にふさわしい人材の選抜、育成、配置を通して、組織全体の成果創出を加速させることが目的のはずだ。

 しかし管理職の役割は多岐にわたり、プレーヤーとは異なる能力が求められるのが実情。管理職が自身の役割を適切に把握し、力を発揮していく第一歩として、任命理由の説明は男女問わず重要なカギとなる。

 特に、昇進に積極的ではない女性に対しては、任命の際に「なぜ選ばれたのか」「期待する役割は何か」を丁寧に伝えることが、役割移行という高い障壁を乗り越える上で力強い支援になるだろう。(つづく)

 〈執筆構成=ALL DIFFERENT〉

 【次回は3月第4週に掲載予定】