2024.06.25 スパコン「富岳」 グラフ探索性能2割向上 高速アルゴリズム開発 NTT

上図はGraph500の計算。丸数字は頂点、線は辺を表す。下図は、開発したアルゴリズムを用いた計算の流れ。事前に木構造の部分をグラフから分離しておくことで、最終的に得られるBFS木を変えずにBFSの処理範囲を小さくしている。

 NTTは25日、理化学研究所と共同開発したスーパーコンピューター「富岳(ふがく)」の大規模グラフ探索性能を約20%向上させる高速アルゴリズムを開発したと発表した。事物のネットワーク構造を頂点と辺で表現した「グラフ」というデータ構造上で、グラフ全体の頂点を近い順にたどる特殊な計算方式で実現した。GPU(画像処理半導体)を搭載したスパコンのプログラム開発にも今回のアルゴリズムを応用させたい考えだ。

 今回着目したグラフは、棒グラフや円グラフと異なり、複数の点を頂点として、辺でつないだような形のデータ構造を示す。例えば鉄道の路線図では駅を頂点に、間の線路を辺に対応させ、グラフと見立てることができる。通信網や金融取引も同様にグラフ化できるほか、抽象的なデータである知識も情報をグラフで構成することが可能だ。

 NTTなどの研究グループは、このグラフを活用して富岳の性能向上に取り組んだ。

 富岳は、5月に発表された世界のスパコンランキングのうち、実社会の複雑な現象やビッグデータなどの大規模グラフ解析性能を示す「Graph500」で9期連続1位を獲得している。Graph500では、与えられた頂点(始点)から近い順に頂点をたどるツリー(BFS木)の構築を効率的に行う性能が順位の指標となる。富岳のハードウエアはそのままに性能アップを図るには、効率的なプログラムが必要になることから、今回の研究につながった。NTTが開発したアルゴリズム「Forest Pruning」を活用している。

 NTTコンピュータ&データサイエンス研究所の新井淳也主任研究員は「与えられた始点に近い頂点から順にグラフの全頂点を訪問することで、各頂点までの最短経路がBFS木として得られる。グラフ処理の基礎的な要素技術となる」と説明する。

 実証実験では、富岳が持つ約16万個のCPUのうち96%にあたる15万2064個を用い性能を計測。その結果、2023年11月の前回より約20%の性能向上が確認されたという。新井主任研究員は「Graph500首位はソフトウエアの性能向上によって維持されている」と力を込めた。

 今後は、GPUの使用が一般的になりつつあることに対応し、GPU搭載スパコン向けのプログラム開発を強化する方針だ。

スーパーコンピューター「富岳」

(26日付電波新聞/電波新聞デジタルで詳報します)