2024.11.22 【「五感」を創る コンテンツ制作の今】<4> 「エンタメを薬にする」 イヤホンで脳波計測、専用音楽で脳をサウナ気分にも
イヤホン型脳波計を装着する今村CEO
エンタメを薬にする――。そんな強い思いを持ち、音楽で脳の状態を変える「ニューロミュージック」を立ち上げたのが、スタートアップのVIE(ヴィー、神奈川県鎌倉市)だ。
2013年に創業したヴィー(旧ヴィースタイル)は、自社開発の首に掛けるイヤホン型脳波計を活用した研究や事業のサポートに加え、脳のリズムを整えるニューロミュージックの作成・販売などを手掛ける。専用音楽アプリ「VIE Tunes」は約7万ダウンロードあり、5年後をめどに医療向け音楽アプリの開発も視野に入れる。
今村泰彦CEOが目指すのは、脳の仕組みを解明し、脳波で状態を変化させることで、精神疾患などの病の解消につなげることだ。そのために開発したのがニューロミュージックになる。
ニューロミュージックは、不快な音と認識される、40ヘルツ付近の刺激音を発するベースやキーボードの音の振幅を修正。認知機能に関係があるとされるガンマ波やリラックス効果につながるとされるシータ波を増幅し、「睡眠」や「集中」など、なりたい脳の状態にすることを目指している。
VIE Tunesでは、アーティストが作った独自のニューロミュージックが聴ける。音楽制作時に首に掛けるイヤホン型脳波計で計測し、脳のリズムに変化が認められた音楽を配信している。
ヴィーの脳波計は、USB-Cで充電する防水タイプ「VIE Chill」と、非防水タイプ「VIE Zone」をそろえる。左右のイヤーチップが電極となり、外耳道から脳波を取得。計測データのノイズを取り除き、必要な数値だけ取得する。
イヤホン型脳波計で計測した脳の状態は、「VIE Tunes Pro」を使うことでリアルタイムに把握できる。仕事やヨガ、サウナ、睡眠などさまざまなシーンの脳状態を数値化し、ユーザーごとに個別最適化したニューロミュージックを提案してくれるアプリだ。
同社は、研究所や大学、製薬企業などを対象に、イヤホン型脳波計で脳波を計測、分析した結果をフィードバックするサービスも提供している。ニューロミュージックを使ったイベントは年4回ほど実施し、実際に音楽を聴いて脳の状態の変化を体感してもらうことも目指している。
脳科学に着目
今村CEOは、ワーナーミュージック・ジャパンや、ノートアプリ「エバーノート」などに勤務後、ヴィーを立ち上げた。
今村CEOが首に掛けるイヤホン型脳波計に着目したのは、装着している間は常に脳波を計測できる点が魅力的だったからだ。ヘッドフォンとイヤホンを開発して生産ラインを確保した後、イヤホン型脳波計も開発。シーンに応じて最適な音楽を流すソフトウェアも発売し、23年にニューロミュージックの事業化を始めた。
今村CEOは、ニューロミュージックなどの脳科学を活用したサービスを使い、人間が「幸せ」と感じるものの正体を解き明かすことを目指している。
国もデジタル脳整備へ
国も脳科学の研究開発を強化している。文部科学省は、認知症やうつ病などの神経・精神疾患の克服に向けて、脳のメカニズム解明と治療などを産学連携で目指す「脳神経科学統合プログラム」を主導。数理モデルを使い仮想空間上に脳を再現する「デジタル脳」整備などの方向性を打ち出している。25年度の予算の要求・要望額は、24年度の65億円から75億円に増額し、脳科学への取り組みを加速している。