2025.01.15 【新春インタビュー】アルプスアルパイン 泉英男代表取締役社長CEO
車載事業のポートフォリオ転換
―車載事業のポートフォリオ転換2024年はどのような年でしたか。
泉 24年1月末の23年度第3四半期決算(23年4~12月)発表時に、24年度を最終年度に進めていた「第2次中期経営計画」を中止することと経営構造改革の実行を発表しました。要因の一つは、モジュール・システム事業で大きな減損損失を計上したためです。
その際には、ステークホルダーの皆さんから厳しい声をいただいたり、当社のお客さまにも心配をおかけしました。その後、経営構造改革に着手し、24年6月には改革の具体的な内容の外部発表も行いました。車載事業の立て直しからという厳しいスタートでしたが、とにかくそのスピードを速めていかないといけない、という思いでこれまで取り組んできました。
コンポーネント事業についても、スマートフォン用部品事業などで海外人員の最適化を進める必要があると判断し、固定費や無駄の削減などに取り組みました。その後、モバイル機器市場は当初の想定よりも堅調に推移しましたので、当社も利益を増やすことができ、ある程度良い方向に進むことができたと思います。
―24年度上期は、計画を上振れる内容でした。
基幹部品のシェア向上
泉 上期は、スマートフォンやアミューズメント向けのコンポーネント販売が拡大したほか、車載用パッシブセンサーのシェアアップなどが収益アップに貢献しました。特に基幹部品のシェア向上を図ることができました。
一方、モジュール・システム事業は、23年は当社の主要顧客である日系顧客の中国市場における販売シェアが落ち込んだことで、当社の中国でのシェアもかなり低下しました。このため、24年度についても中国市場向けのビジネスを期初計画時点からかなり厳しくみていましたが、実際には想定以上に厳しい結果となっています。24年は欧州系OEMの中国市場における販売シェアも、現地ローカル企業との競合激化で低下し、当社のモジュール・システム事業にマイナスの影響を与えています。
ただ、当社の中国事業は、コンポーネント事業ではローカル顧客にもそこそこ採用されており、24年度上期は中国市場での車載パッシブセンサーのシェア拡大を図ることができました。一方、モジュール・システム事業については、もともと中国市場で大きな売り上げのボリュームがあったわけではありません。
―ポートフォリオ改革の進捗(しんちょく)状況はいかがですか。
スピード上げ取り組む
泉 今期に入り、約半年間、かなりスピードを上げて取り組みました。コスト構造改革は、24年度通期で300億円のコスト改善効果の計画を発表しましたが、上期は計画に対し達成率が103%と順調に進捗しました。計画通りに進めることができているという感触を持っています。
当社は、モジュール・システム事業売り上げに占める不採算製品の比率が15%あり、これらを整理しない限り、新しい事業に取り組んでも十分な利益向上が望めないため、不採算事業の終息にスピードを上げて取り組んでおり、現状では計画に対して2年くらい前倒しで進捗していると思います。27年度には不採算製品の売上比率を2%まで下げるという目標を立てていますが、めどが立ってきたと感じています。
一方、高付加価値製品の受注は着実に増加しており、その多くがデジタルキャビン関連の製品となっています。それと合わせて、歩留まり改善や原価低減の取り組みも順調に進んでいるため、24年は車載事業のポートフォリオ転換にめどを立てることのできた一年になったのではないかと思います。
生産拠点の整備に向け集中投資
―今後の景気動向をどのようにみていますか。
泉 24年12月の初めに北米に出張しました。米国のほか、当社のメキシコ・レイノサ工場も訪問しましたが、米国トランプ政権誕生が今後の景気に与える影響などが読みにくいため、今後の見通しが立てづらいというのが実際のところです。実際にメキシコに25%関税などが課されることになれば影響は大きいと思いますが、メキシコの人たちに直接話を聞いてみると、現地の人たちは意外と冷静で、「実際に25%関税が課されることはないと思う」という楽観的な見方が多かったと思います。
北米の自動車市場は25年も成長が見込まれており、ある程度ほかの地域の低迷をカバーしてくれると考えています。
25年の市場全体のトレンドとしては、自動車向けはグローバル全体ではやや厳しさが続くと考えていますが、コンポーネント事業は中国モバイル市場でのシェアを拡大させることで伸ばしていきたいと思います。
―次期中期経営計画の考え方は。
4月から第3次中計
泉 25年4月から3カ年の「第3次中期経営計画」をスタートします。24年度は、コスト構造改革を中心に据えた活動を進めていますが、不採算製品終息のめどが立ってきて、あとは実行するのみという形になってきていますので、次期の中計では、成長投資の比重を増やしていく方針です。
具体的には、次世代の高感度磁気センサーの立ち上げ投資などに充当する予定ですが、その一部は前倒しして24年下期からスタートしています。
また、過去10年間ほどの当社を振り返ると、グローバルでの拠点整備がやや不十分な面がありましたので、次の中計では、戦略投資の一環として、生産拠点整備の加速に向けた投資にもしっかり取り組みます。省人化や無人化、強靭化(きょうじんか)への取り組みを推進し、生産拠点の集約も進めます。その一環として、いわき地区への車載関連事業の集約や、宮城地区への電子部品事業集約などを進める計画です。これらの生産機能強化と生産拠点集約整備に今後3年半で400億円を投じることで、収益性向上を図っていきます。これらの投資は特に次期中計の前半の時期に集中投資する方針です。
―高感度磁気センサーの立ち上げ予定は。
泉 26年から立ち上げ、27年には本格量産を開始する予定です。当社は6インチ薄膜ウエハーによる生産を行っていますが、8インチへの移行を計画しており、これも前倒しで実施したいと考えています。
―M&Aやアライアンスの取り組みはいかがですか。
泉 これまでの当社は、良い表現をすれば製品がバラエティーに富んでいますが、悪く言えば投資が分散していた面があり、コア事業に集中させていく必要があります。その一環として、24年度には、アルプス物流株式の売却、そしてパワーインダクター事業の台湾デルタグループへの事業譲渡を発表しました。それらによって得られた資金を成長投資に充てていきます。
アライアンスに関しては、当社は今まで、19年の米クアルコム社との協業を皮切りに、デジタルキャビンをキーワードとして国内外のさまざまな企業との協業を進めてきました。その結果、デジタルキャビンソリューション実現に向けた布陣が固まり、実現にめどが立ってきました。デジタルキャビンの領域はこれからも広がっていくと思います。今後はさらにセンサー関連での協業の幅を広げていきたいと考えています。
電子部品の事業についても、技術の融合により、新製品が生まれやすくなる環境づくりに努めていきます。
自社開発ICの外販進める
―生成AI(人工知能)の広がりによる貴社事業への影響はあるのですか。
泉 データセンター(DC)で直接使用される当社製品はあまりないですが、その中で、DC用の光通信用レンズの販売が大きく増加しており、24年度は前期比で3倍くらいのペースで伸びています。今後も期待できるため、設備投資の実施も決定しました。
―半導体の外販ビジネスの手応えはいかがですか。
泉 23年末に、自社開発ICの外販の第1弾製品として、高感度・高ノイズ耐性の静電センシング用ICを発表しましたが、24年10月には第2弾製品となる「電流リップル検出IC」を発表しました。この電流リップル検出ICは、ブラシ付きDCモーターの電流リップルを検出、パルス信号に変換して出力する回路機能を1チップ化した製品です。このほか、GMRヘッドで培った技術を応用して開発したEV(電気自動車)用の電流センサーモジュールもあり、現在、これらの3種類の製品で量産供給の体制を整えています。
当社は約20年にわたって自社で使用するICの内製化を行ってきましたが、「アルプスアルパインのICを活用したい」という顧客の要望が増えていたため、ICをアルプスアルパインブランドで外販することとしたものです。
第2世代のミリ波センサーも、量産化に向けた最終段階にきています。今後も市場でのアドバンテージを発揮できる製品のラインアップを増やしていきたいと思います。
―インド市場への取り組みは。
泉 当社は、インドでの車載ビジネス拡大のため、21年8月にインドのルマックス社との合弁会社「Lumax Alps Alpine India Private Limited」を設立しました。さらに、25年早々にはインド国内に開発センターを立ち上げる予定です。これまで当社のインドにおける車載ビジネスは、四輪車や二輪車向けのスイッチなどが主体でしたが、近年はデジタルキャビン関連の要求も増えているため、現地での開発機能を整備することで、そうした現地顧客のニーズに応えていきたいと考えています。
(聞き手は電波新聞社代表取締役社長 平山勉)