2025.01.16 【計測器総合特集】計測は産業のマザーツール 赤外線サーモグラフィー
日本アビオニクスのハイエンドモデル「H9300」
計測業界では、計測できないものは作れない、計測は産業のマザーツールと言われる。高度な製品・サービスを生み出すためには、高精度な計測や評価が欠かせない。オシロスコープ、デジタルマルチメーターという基本的な測定器、幅広いユースケースを持つ赤外線サーモグラフィーカメラを紹介する。
非接触で表面温度を検知
赤外線を使ったサーモグラフィーカメラは、電気設備の保守点検、建物や太陽光パネルの劣化・異常診断、温度管理の分野で幅広く活用されている。
赤外線は目に見えない不可視光で、温度を持つ全ての物体から放射されている。高温になるほど、放射される赤外線の放射量が大きくなる性質を利用し、サーモカメラは非接触で物体の表面温度を検知して温度分布を熱画像化する。広い範囲の温度を迅速に把握でき、大きな施設や屋外環境の温度分布を可視化できる。現在では防犯監視や車載機器、医療など、さまざまな用途で活用されている。
新型コロナウイルス感染症の拡大期に、サーモカメラを用いて発熱者を推定するための体表面温度スクリーニングで需要が急増した。
以前から産業用途としての利用が多い。自動車のブレーキ時の制動やタイヤが路上を走行する際の温度範囲、エアバッグの膨張時の温度分布など、さまざまな研究開発用途でも活用される。
プラント設備や建築物、道路などのインフラの維持管理にも重要な役割を果たす。定期点検や遠隔監視などにサーモカメラを用いることで、設備のベアリングや電気回路の過熱を発見し、予知保全につなげられる。
半導体工程では、シリコンウエハーを製造する際に、シリコン融液からインゴット(円柱状の単結晶の塊)を引き上げる際の温度計測に活用。シリコンの融点は約1410度で、温度の低下はウエハーの品質に影響が及ぶため、温度の管理が非常に重要となる。
製造プロセスでは、薄膜に回路パターンを施すためにフォトレジストと呼ばれる感光性樹脂を塗布する。ウエハー上に滴下したレジストが均一かどうかを判定するためにも赤外線カメラが使用される。研磨したウエハー表面は鏡状のため赤外線を反射しやすいのに対し、塗布したレジストは透明で反射しにくいため、塗りむらが判断できる。
半導体の研究開発用として、日本アビオニクスは昨年12月、赤外線サーモの新製品「H9300」を発売した。
新製品はハイエンドモデルで、数百マイクロメートルサイズの部品内部の熱解析に対応する。半導体の高機能化・小型化を背景に、パワー半導体の需要増加により高電力・高電圧に耐える材料研究が進む。新製品は最先端の研究開発における熱解析の需要に応える。