2025.03.30 チケット不正転売の防止へ デジタル庁がアイドルライブで大規模実証

スマートフォンに表示されたQRコードと顔を認証端末で読み取る様子=29日、千葉市美浜区

マイナカードを活用した本人確認でライブ会場に入場するファンら=29日、千葉市美浜区マイナカードを活用した本人確認でライブ会場に入場するファンら=29日、千葉市美浜区

実証実験の舞台となった「Hello! Project ひなフェス 2025」=千葉市美浜区実証実験の舞台となった「Hello! Project ひなフェス 2025」=千葉市美浜区

 人気イベントのチケットを不正に転売する行為が後を絶たない。こうした中でデジタル庁は29日、マイナンバーカードとデジタル認証アプリを用いてチケットの不正転売を防ぐ実証実験を公開した。実験の舞台は千葉市美浜区の幕張メッセで同日に開幕したアイドルライブで、入場時の本人確認などをデジタル化した。マイナカードをエンターテインメント分野に生かす先駆的な事例として注目を集めそうだ。

 実験の対象となったライブは、多彩なアイドルグループが登場する「Hello! Project ひなフェス 2025」。会場の入り口には、マイナカード認証者の専用レーンを設置。続々とレーンを訪れた認証者たちが、自身のスマートフォンに表示された電子チケットの「QRコード」と「顔」をスタッフが持つタブレット端末に向け、本人確認を経て通過していった。 

マイナカードと認証アプリを活用

 具体的な仕組みはこうだ。まずチケットの抽選申し込み時にマイナカードとデジタル認証アプリで本人確認と顔情報の登録を行い、認証済みアカウントを作成。当選者に対して、登録された顔情報とひも付いたQRコードを発行する。

 ひなフェスは、30日までの2日間の日程で開催。4公演からなり、約2万2000人の来場を見込んでいた。そのうちの10%超を占めるマイナカード認証者が入場する際に、会場内の端末でQR コードと顔情報を読み込み、本人確認を行うという流れだ。視察した穂坂泰デジタル副大臣は報道陣の取材に応じ、「みんなが平等な機会を得て大好きなアーティストを応援するといった純粋に楽しめる環境づくりを、しっかりと後ろで支えていきたい」と力を込めた。

 実験の背景には、深刻化するチケットの不正転売問題がある。ひなフェスでは、デジタル化で不正転売を防ぐ手応えを得る一方、4公演の合計で約300枚の高額転売が2次転売サイトで見つかったという。実験に協力したイベント企画・制作のアップフロントプロモーション(東京都品川区)の西口猛代表取締役は、「かねてから適切な価格で見たい人に行き渡らないことを問題にしてきた。この問題点が少しでも解消されることを期待したい」と述べた。

イベント運営を省力化する効果も

 チケットの不正転売は、エンタメ業界共通の問題だ。イベント運営側はこれまでも、入場時に顔写真付き身分証明書の提示を求める対策を打ってきた。ただ大規模な会場になると、確認に従事するスタッフを増員する必要があり、デジタルの力で省力化する工夫が望まれていた。

 今回の仕組みを支えた電子チケット開発のplayground(プレイグラウンド、同千代田区)の伊藤圭史代表取締役は、「チケット購入者がスムーズに早く入場できるようになるため、スタッフを増やさなくて済み、不正転売も止められる」と力説。転売業者が大量のアカウントを作成しチケット抽選に応募するという行為を防ぐ効果にも期待感を示した。また実験では、入場後に席の移動を転売するという問題にも着目しており、さまざまな不正防止対策を検証する活動が進むことになりそうだ。

 デジタル認証アプリは、マイナカードを用いた手軽で安全な認証や署名を実現できるアプリで、同庁が昨年6月に発表した。行政機関や民間事業者は異なるシステム同士をつなぐ同庁のAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を利用することで、本人確認などの機能を組み込める。現在の利用者数は約100社・団体。同庁はマイナカードの利用シーンを一段と広げることを目指し、今後も民間企業を知恵を生かしながら、アプリの社会実装を促したい考えだ。