2025.04.08 AIで「働きがい」支援 組織づくりの実践者が新サービス提供へ
発表会で説明するU-ZEROの三村真宗CEО=東京都千代田区
独SAP傘下で出張・経費精算システムを手掛けるコンカー(東京都千代田区)を率い、民間機関が選ぶ日本の「働きがいのある会社」ランキング(中規模部門)で7年連続トップに輝く――。そんな実績を持つ三村真宗氏が、従業員のエンゲージメント(働きがい)向上を支援するU-ZERO(ユーゼロ、同港区)を設立した。5月から、AI(人工知能)を活用して従業員の本音を収集・分析し経営に反映するクラウドサービスの提供を始めることを目指す。
「あなたの会社や組織の課題は何だと思いますか」。そんなAIインタビュアーの質問に対して「人手不足」と答えると、AIが不足を感じる場面について尋ねてきた。続けて回答者が「プロジェクトを複数同時に進行しているときにリソース不足が発生し、納期がひっ迫しています」と返すと、AIがさらに課題を深掘りし、最終的に生成AIを生かす解決策を導いてくれた。ユーゼロが東京都内で3月に開いた新サービス発表会でのデモンストレーションの一幕だ。
これは「コンストラクティブフィードバック」というツールで、従業員の声をAIが従業員の声を拾い上げて組織の課題や強みを可視化してくれる。さらにユーゼロは、部署間の壁を取り払うための「チームシナジーモニタリング」も用意。各部署の連携のしやすさを10段階で評価し、その結果を色の違いや濃淡で示す「ヒートマップ」で確認できるようにした。経営者はこのツールで、部署間の目詰まりを見つけることができる。そのほか、社員のストレスとやる気の状態をAIが分析しメンタルヘルス(心の健康)問題の早期発見につなげるサービスなども提供。コンサルティングを含めた形で、組織のエンゲージメント改革を後押ししたい考えだ。
低い国内エンゲージメント率の向上へ
組織のエンゲージメントを高める取り組みは、企業の競争力強化に不可欠な世界共通の経営課題で、社員が成長を実感して働きがいを感じる環境づくりが求められている。ただ、仕事への熱意や会社への貢献意欲を示す「従業員エンゲージメント率」の国際比較を見ると、日本が海外勢から引き離されているのが現状だ。米ギャラップの2023年版リポートによると、エンゲージメントを感じている従業員の比率で日本は約5%にとどまり、世界平均の23.4%を大きく下回る。こうした中、エンゲージメントが低い若者が早期に会社を見限る傾向が問題視されているほか、やる気の低下が労働生産性の低迷につながっていることも懸念されている状況だ。
ユーゼロで代表取締役CEОを務める三村氏は、こうした状況を踏まえて、組織のエンゲージメント改革を進める必要性を強調。現場の声に向き合う「VoE(ボイス・オブ・エンプロイー)経営」、従業員同士の相互成長と連帯感を育む「フィードバックカルチャー」、従業員のパフォーマンスとモチベーションを高める「エンプロイーエクスペリエンス」という3つの観点から改革を促すことに意欲を示した。
業績の伸びと社員の幸福へつなげる経験
新サービスのベースには、三村氏の豊富な経験がある。三村氏は1993年に日本法人の創業メンバーとしてSAPジャパンに入社し、社長室長や戦略製品事業バイスプレジデントなどを歴任。その後はマッキンゼー・アンド・カンパニーなどを経て、2011年には米コンカーの日本進出に伴い社長に就任した。そこでエンゲージメント重視の経営を実践し、働きがいの向上が「業績の伸び」と「社員の幸福」に直結することを実感。「コンカーの実務で培った経営手法を型として提供することによって、多くの企業の役に立ちたい」という思いを強め、23年末にコンカー社長を退任。24年6月にユーゼロを創業したという。
今後は、デロイトトーマツコンサルティングや外部のサービスとも連携し、提供体制を順次拡充する方針だ。発表会に登壇した同社の神山友佑代表執行役は、「経営コンサルティングとユーゼロのソリューションが強力な改革を実現していくアクセラレーターになる」と期待感を示した。富士通取締役執行役員SEVP CHROの平松浩樹氏も出席し、主体的に成長し挑戦し続けるエンゲージメントの高い人材や組織をつくる必要性を力説。その上で、「ユーゼロのサービスを段階的に導入し、その活用の実践値や効果の最大化のナレッジを蓄積していきたい」との考えを示した。
「すべての働く人が幸せで働きがいのある未来づくりに貢献したい」。そんな思いで、手詰まり感があった日本企業の働きがい向上策を前進させることを目指す三村氏。人事関連業務を高度化する技術「HRテック」が経営で果たす役割が増す中、ユーゼロが挑戦する舞台も広がりそうだ。