東京大学と半導体受託製造大手のTSMC（台湾積体電路製造）は12日、共同で先端半導体分野の研究や人材育成に取り組む拠点を東大内に開設したと発表した。TSMCが台湾以外の大学と拠点づくりで連携するのは初めて。両者は拠点を通じて教育面でも協力し、TSMCの設計パッケージを東大の講義で使用するなどの取り組みも強化する

　今回運用を始めた拠点は「TSMC東大ラボ」で、東大浅野キャンパス（東京都文京区）に設けた。ラボ長は両者がそれぞれ指名した2人が務め、運営を東大の教職員が務める。東大の藤井輝夫総長は会見で、「これまでの連携をよりインテンシブに進められる」とラボ開設の意義を強調した。

　両者は2019年に先端半導体技術の研究開発を全学・全社レベルで行うと発表して以来、連携を強化。これまでに21件の研究プロジェクトを立ち上げてきたが、今後それを加速させたい考えだ。

　東大は半導体設計の分野に強みがあり、共同研究を通じて最先端の2ナノメートル（ナノは10億分の1）プロセスに不可欠な「GAA（ゲート・オール・アラウンド）」やそれ以降のトランジスタ構造に関する研究の進展を期待しているという。

　人材育成では、23年にはTSMCの半導体設計教育パッケージ「ADFP（アカデミック・デザイン・フォスター・パッケージ）」を授業で導入していたが、それを加速させる。16ナノメートルプロセスの「FinFET」というトランジスタ構造の試作を授業でできるようにする。博士課程に対する支援も行う予定だ。

　TSMCにとってもラボを開設する意義は大きい。同社でエグゼクティブ・バイス・プレジデントを務めるワイジェイ・ミー氏は「今回の発表は当社にとっても節目になる」とし、「東大は最も有名な研究機関であり、地理的にも近く、コミュニケーションが取りやすい」と語った。同社は熊本工場やつくば市の開発拠点などで多彩な事業を進めており、東大との連携でそうした展開に弾みをつけたい考えだ。