2020.07.30 【電子部品技術総合特集】ハイテクフォーカスニチコン 車載用導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサの最新技術動向
■はじめに
近年、カーエレクトロニクス技術の進展とEV/HV(電気自動車/ハイブリッド車)の台頭により、電子制御ユニット(ECU)の数は増加しており、自動車に搭載される電子部品の需要も高まっている。また、車載用電子回路はこれまで車室内に搭載されていたが、車室内空間の確保のため、エンジンルーム内へ搭載されることが多くなっている。
エンジンルーム内は車室内に比べ高温環境にさらされやすいため、ECUに搭載されるコンデンサも高温度・長寿命化が求められている。さらにECUの省電力化、小型化、高性能化を狙う目的で、部品には高許容リプル電流対応、高耐電圧化、小型化、高容量化、耐振動性などが求められている。
今回、これらの要求に対応する導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサ(以下、ハイブリッドコンデンサ)について、紹介する。
ハイブリッドコンデンサの概要
■アルミ電解コンデンサの素子構造
一般的な巻回形アルミ電解コンデンサの素子構造(図1参照)を示す。アルミ電解コンデンサは、誘電体皮膜を有する陽極箔と陰極箔の間にセパレータを介して巻き取った素子に、電解液(電解質)を保持させている。ハイブリッドコンデンサも基本的な素子構造は同じであるが、使用する電解質が異なる。
■ハイブリッドコンデンサの特徴
ハイブリッドコンデンサは、導電性高分子と電解液の2種類の電解質を採用している。一般的に使用されている導電性高分子PEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)の導電機構は電子伝導であり、イオン伝導を導電機構としている電解液と比較すると、その電導度は非常に高く約1万倍となる。電導度は抵抗成分に反比例するため、大幅な低ESR化が可能であり、それによりリプル電流値を大きくできる。
また、低温領域下でもESR変化が小さいことが特徴であり、寒冷地や高地など厳しい環境下でも安定した性能を維持できる。なお、低ESR性能が十分に発現するのは、1キロヘルツ以降の中-高周波域となっている(図2参照)。
さらに、ハイブリッドコンデンサのESR経時変化はアルミ電解コンデンサに比べ非常に小さく、高温環境で長時間使用しても電気的性能が維持できるため、許容リプル電流値を増加させることが可能となり、高い信頼性を実現している(図3参照)。
加えて導電性高分子と、それに適した電解液を採用することで、導電性高分子の性能を損なうことなく、アルミ電解コンデンサ並みの低漏れ電流性能を実現することが可能である。
高温度対応と高リプル対応
■「GYCシリーズ」
市場要求の高まっている高温度化・高許容リプル電流化に対応するため、高温度対応品として135度4千時間保証(φ6.3は2000時間)の「GYCシリーズ」をラインアップし、量産を開始した。
■「GYDシリーズ」
さらに超高温度環境下で使用される様々なアプリケーションに対して、高性能化および長寿命化の実現が期待できる150度1000時間保証の「GYDシリーズ」を開発した(写真)。GYDシリーズは、導電性高分子の材料・製法に改良を加え、さらに高温度下でも蒸散しにくく、導電性高分子と相性の良い電解液を採用することにより150度対応を実現した。なお、いずれのシリーズにおいても耐振動構造対応(加速度30G保証)が可能である。
■今後の展望
ハイブリッドコンデンサは、低抵抗、高許容リプル電流、温度特性や耐久性に優れていることから、車載、民生、産機分野での市場はさらに拡大することが見込まれる。特に車載用途では、安全機能や自動運転の開発で各種センサーが拡充され、新たな高出力用途の電動化が進むと考えられる。コンデンサの搭載点数の増加に伴い、高性能なコンデンサの要求は今まで以上に増え、今後はさらなる高耐熱化、高許容リプル電流化、高容量化が求められる。
様々な市場ニーズに応えるため、当社ではサイズ拡充、高許容リプル電流化、高容量化に重点を置き、製品開発を進めていく。〈筆者=ニチコン〉