2020.11.02 【NHK技研90周年に寄せて】元NHK放送技術研究所所長 西澤台次氏これからも世界の放送技術けん引

 私は、NHK技研(技研)においてハイビジョン(高品位テレビ)の研究と標準化に取り組んだ。世界統一規格のITU勧告709で、走査線数1125本、有効水平画素数1920、有効垂直画素数1080、アスペクト比16:9が規定されている。このベースとなったものが、家庭の居間で視聴した時に視聴者が満足できる画面の大きさ、縦横比、解像度などについての技研の研究である。NTSCやPAL方式にとらわれない新しい画面規格を提案した結果、達成できた規格統一である。

 ハイビジョンの出現により、大画面平面ディスプレイの研究開発と実用化が進み、家庭用テレビだけでなく産業に広く活用されている。画素数1920×1080はPCやスマートフォンに代表されるデジタル機器のディスプレイのベースにもなっている。

 ハイビジョンの国際的な理解を促進するため、NHKは米国のNABショー、欧州のIBCをはじめ、世界各地でメーカーと協力して展示。技研は研究開発段階の装置を含め多くの機器を出展した。ハイビジョン用VTRが技研で開発されると早速、番組制作部門がハイビジョンならではの番組制作手法の検討と試作を開始した。こうして作られた番組は海外での展示にも使われ、ハイビジョンの魅力を世界に伝えた。

 ITUにおけるハイビジョン規格の世界統一に向け、NHKは郵政省(現総務省)、BTA(現電波産業会=ARIB)、民放、メーカーなどと協力し大変な努力をした。私もその活動の一端を担った。日本のITUにおける活動を反映し、現在ではITU無線通信部会の放送関係の研究グループSG-6の議長を技研の西田幸博フェローが務めるまでになっている。今後も技研が規格の提案と成立に向けて積極的に活動することを願っている。

 技研の活動の中で、毎年の技研公開は特筆すべきものである。第1回の技研公開は1947年に開催されたが、今年はコロナ禍のため開催できなかった。技研公開は、専門家だけでなく一般視聴者に放送技術の研究開発を理解してもらう上で、非常に大切な機会である。担当者にとっては毎年の展示は大変ではあるが、研究を進める上で刺激になる。早期の再開を期待したい。

 メディアの変化が速くなっていく中で、放送機関が存在価値をより高めるためには、研究開発が不可欠である。諸外国の放送機関の研究者や内外の研究機関や大学の研究者とより一層協力することを望みたい。そして、技研が世界の放送技術をこれからもけん引してほしい。