2020.12.09 【次世代放送技術を読む NHK技研90周年企画】テレビ視聴ロボット㊤

テレビ視聴ロボット

 テレビ放送の開始から今年で67年、テレビの見方は時代とともに大きく変化してきた。テレビ受像機が高価な時代は、テレビの前に幅広い世代の人が集い、複数人でテレビを視聴することが多かった。しかし、安価なテレビ受像機や録画機、ネットワークにつながる携帯端末の普及など、時間と場所を選ばない視聴環境が整ってきたことで、一人でテレビを視聴している人が増加している。

 NHK放送文化研究所の2015年の調査では、一人で視聴する人は複数人で視聴する人の数を上回っている。これは、1世帯当たりの構成人数の減少も影響している。特に、高齢者の単独世帯は増加傾向にあり、複数人でテレビを見たいと思っても日常的には困難な場合が多い。

 複数人でテレビを視聴することは、楽しさや感動の共有、たわいのない会話、思いも寄らなかった気付きなど、一人でテレビを視聴するのとは異なる楽しみがある。また、親と子、高齢者と孫など、世代を超えた交流の機会を与える役割もある。

 NHK技研では、16年からテレビをより楽しく視聴するためのパートナーとして、人と一緒にテレビを視聴するコミュニケーションロボット(テレビ視聴ロボット)の研究を行っている。ロボットの存在が孤独感の解消や、人同士のコミュニケーションの活性化など、人と人、人とテレビを結ぶ鎹(かすがい)の役割となり、複数人でテレビを見るような効果を与えるテレビ視聴環境の実現可能性を検討している。

 以下、テレビ視聴ロボットの研究開発内容を紹介する。

【ロボット設計のための調査】

 テレビ視聴ロボットを設計するため、テレビを視聴する際の人同士の行動分析を行っている。これまでに、仲の良い2人組が番組を視聴しているときの発話を10種類の種別に分類する対話解析を実施した。その結果「開示(自らの気持ちを表出する言葉)」に相当する発話を多くすることが分かった。また、「質問」「情報」「確認」に相当する発話に対して、相手の反応率が高いことが分かってきた。ここで、「質問」は相手への疑問の問いかけ、「情報」は自分の知っている情報の発信、「確認」は相手に確認を求める言葉である。

 一般のコミュニケーションロボット所有者と非所有者、各1千人へのアンケート調査も実施した。その結果、ロボットは人をサポートするものと想像している人、人型の形状を好む人が多いことが分かった。一方で、ロボット所有者は非所有者に比べ、ロボットからの能動的な動作を求める回答が多い傾向があった。

 このことから、日ごろからロボットと生活を共にすると、人をサポートする受動的な動作だけでなく、ロボットから人への能動的な働きかけを期待するようになると考えられる。

 こうした調査結果より、テレビ視聴ロボットの機能要件を定めて、その要件に沿って開発したロボットと人とのテレビ視聴実験を行った。(つづく)

 〈筆者=ネットサービス基盤研究部・金子豊研究主幹〉

 (㊦は12月16日掲載予定)