2020.12.16 【次世代放送技術を読む NHK技研90周年企画】テレビ視聴ロボット㊦
【ロボットの機能要件】
前回の記事(12月9日付)の調査の結果から、テレビ視聴を楽しくするロボットの機能に求められる要件として、テレビの操作や、番組の検索など、人をサポートする機能だけでなく、ロボットから人へ自律的に働きかける能動的な動作が重要と考えている。現在、テレビ視聴ロボットの能動的な動作を含む以下の4点を中心に開発を進めている。①テレビを見ながら番組に関連する「開示」相当の発話をする。②「質問」「情報」「確認」に相当する話しかけをすることで、人への対話を促す。③人の「質問」「情報」「確認」の発話に対して、回答や共感などの的確な反応をする。④テレビ視聴や人との対話を楽しんでいるような身体的なしぐさをする。
【開発中のロボットの特徴】
開発中のテレビ視聴ロボットは、搭載したカメラとマイクにより周囲のテレビと人を認識し、テレビを視聴しているような動作や、人との対話を行う。様々なキーワード抽出処理を並列に実行することで、視聴中のテレビ番組の映像、音声、番組情報、字幕情報から多数のキーワードを抽出する。
その中から、対話に適当なキーワードを選択して、ロボットの発話に用いる。キーワードの選択方法の一つとして、画像の顕著性と呼ばれる、人が注目しやすいと考えられる画像の特徴箇所を検出し、それに関係するキーワードを選択する機能を組み込んだ。過去のテレビ番組の字幕文の中から「食べたい」や「大きい」などの感情を含む文をテンプレート文とし、選択したキーワードと組み合わせることで、「開示」に相当する発話文を自動生成している。
ロボットの発話に人が応答した場合には、雑談対話モードに移行し、人との対話を行う。人との対話には、KDDI総合研究所が開発した複数の対話エンジンを切り替えることで、話題を変えながら人との対話を継続することが特徴の「雑談対話型AI」を用いた。この試作ロボットは技研公開2019(テレビ視聴ロボット、https://www.nhk.or.jp/strl/open2019/tenji/5.html)に展示し、来場者に体験していただいた。
【効果検証と性能改善のためのテレビ視聴実験】
人とロボットのテレビ視聴実験を通して、人への効果の検証と、ロボットの性能改善を進めている。実験参加者へのアンケートからは、ロボットの発話が面白い、ロボットがいることで普段と違う面白さがあったという意見があった。一方で、人と試作ロボットの対話のやりとりは人同士の対話に比べて短いことが分ってきた。原因はロボットの発話種別が人に比べて少ないこと、人の発話に対して適切に応答していないことなどが考えらえる。また、話しかけるタイミングが重要なこと、発話が視聴中の番組内容に合っていない、過去の発話や対話を記憶していないなどの課題も分かってきた。
現在、ロボット掃除機やスマートスピーカが多くの家庭で使われ始めているように、近い将来、家庭内には子どもや高齢者の見守り、介護、家事、教育、娯楽などに関連する様々なロボットやAIが使われるようになることが予想される。これらのロボットやAIには人とのコミュニケーション機能が重要な役割を持つ。多くの人の共通の話題となるテレビ番組を情報源に動作するテレビ視聴ロボットの技術は、人とのコミュニケーションを楽しく、円滑にすることにも応用できると考えている。(おわり)
〈筆者=ネットサービス基盤研究部・金子豊研究主幹〉