2021.01.21 【コンデンサ技術特集】ニチコン導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサの最新技術動向
[写真1]125℃高容量品「GYEシリーズ」
<はじめに>
近年、カーエレクトロニクス技術の進展とEV/HV(電気自動車/ハイブリッド車)の台頭により、電子制御ユニット(ECU)の数は増加しており、自動車に搭載される電子部品の需要も高まっている。また、車載用電子回路はこれまで車室内に搭載されていたが、車内居住空間の確保のため、エンジンルーム内へ搭載されることが多くなっている。エンジンルーム内は車室内に比べ高温環境に曝されやすいため、ECUに搭載されるコンデンサも高温度・長寿命化が求められている。さらに、ECUの省電力化、小型化、高性能化を狙う目的で、部品には高リプル電流対応、高耐電圧化、小形化、高容量化、耐振動性などが求められている。
アルミ電解コンデンサの使用環境が厳しさを増す中で、それらの要求に対応するコンデンサとして、導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサ(以下、ハイブリッドコンデンサ)の採用が進んでいる。ハイブリッドコンデンサは現行のアルミ電解コンデンサと外観や形状は同じだが、高温度・長寿命化、高リプル電流化、低ESR化を実現した製品である。現在、自動車分野のみならず、家電製品、医療用機器、通信インフラ(5G関連)、一般電源など幅広く利用され、アルミ電解コンデンサからの置き換えが進んでいる。
今回、需要が高まっているハイブリッドコンデンサについて、最新技術動向および当社の製品開発について紹介する。
<ハイブリッドコンデンサの概要>
■アルミ電解コンデンサの素子構造
一般的な巻回形アルミ電解コンデンサの素子構造(図1参照)を示す。アルミ電解コンデンサは、誘電体皮膜を有する陽極箔と陰極箔の間にセパレータを介して巻き取った素子に、電解液(電解質)を保持させている。ハイブリッドコンデンサも基本的な素子構造は同じであるが使用する電解質が異なる。
■ハイブリッドコンデンサの特長
ハイブリッドコンデンサは、導電性高分子と電解液の2種類の電解質を採用している。一般的に使用されている導電性高分子PEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)の導電機構は電子電導であり、イオン電導を導電機構としている電解液と比較すると、その電導度は非常に高く約1万倍となる。電導度は抵抗成分に反比例するため、大幅な低ESR化が可能であり、それによりリプル電流値を大きくすることができる。(ワット損失:W=I²R)また、低温領域下でもESR変化が小さいことが特長であり、寒冷地や高地など厳しい環境下でも安定した性能を維持できる。なお、低ESR性能が十分に発現するのは、1k㎐以降の中-高周波域となっている(図2参照)。さらに、ESRの経時変化はアルミ電解コンデンサに比べ非常に小さく、高温環境で長時間使用しても電気的性能が維持できるため、許容リプル電流値の増大が可能となり、高い信頼性が特長である(図3参照)。
一方、アルミ電解コンデンサは、熱や外的要因により生じる誘電体皮膜の欠損部分を修復する性質を有している。誘電体皮膜の修復性能の指標となるのが漏れ電流であるが、電解液に比べ導電性高分子は誘電体皮膜の修復性能に乏しいため、現行の導電性高分子アルミ固体電解コンデンサは漏れ電流が高くなるデメリットがあった。しかし、ハイブリッドコンデンサは導電性高分子と、それに適した電解液を採用することで、導電性高分子の性能を損なうことなく、アルミ電解コンデンサ相当の低漏れ電流性能を実現することが可能である。
上記の通り、ハイブリッドコンデンサは導電性高分子アルミ固体電解コンデンサとアルミ電解コンデンサ双方のメリットを有したコンデンサとなるが、市場でも利便性が認知されつつあり需要が急速に拡大している。
<ハイブリッドコンデンサシリーズ紹介>
■「GYCシリーズ」
当社では125℃4,000時間保証のハイブリッドコンデンサ「GYAシリーズ」を開発し、2017年から量産を開始している。さらに、2018年からは長寿命品の位置付けで105℃10,000時間保証の「GYBシリーズ」を上市した。2019年からは市場要求の高まっている高温度化・高リプル電流化に対応するため、高温度対応品として135℃4,000時間保証(φ6.3は2,000時間)の「GYCシリーズ」をラインアップし、量産を開始した。
また、125℃および135℃の両温度で定格リプル電流値を設定することで、顧客の使用用途に応じて選択できるようにしている。例えば、GYCシリーズを125℃環境で使用する場合、135℃環境に比べて1.3~1.8倍の定格リプル電流値を許容可能である。
■「GYDシリーズ」
超高温度環境下で使用される様々なアプリケーションに対して、高性能化および長寿命化の実現が期待できる150℃1,000時間保証の「GYDシリーズ」を開発した。GYDシリーズは導電性高分子の材料・製法に改良を加え、さらに高温度下でも蒸散しにくく、導電性高分子と相性の良い電解液を採用することにより150℃対応を実現している。
■「GYEシリーズ」
ハイブリッドコンデンサの需要が拡大することで市場では新たなニーズが生まれており、その中の一つに高容量化が挙げられる。理由は、コンデンサの高容量化により員数削減が可能となり、基板の小型化、コストダウンに寄与するためである。
今回、125℃高容量品として、GYAシリーズから1ランク高容量化となる「GYEシリーズ」を開発した(写真1)。GYEシリーズは高容量陽極箔の採用および導電性高分子材料、電解液の最適化により高容量化を実現している。また、定格リプル電流値はGYAシリーズから最大1.25倍向上している。2021年4月に量産を予定しており、GYEシリーズの体系一覧を表1に示す。
なお、GYA~GYEシリーズのφ6.3×7.7L、φ8×10L、φ10×10Lサイズは加速度30G保証となる耐振動構造へも対応している。当社のハイブリッドコンデンサのシリーズ概要を表2に示す。
<今後の展望>
ハイブリッドコンデンサは、低ESR、高リプル電流、温度特性や耐久性に優れていることから、自動車、民生、産機分野での市場はさらに拡大することが予測される。特に自動車用途では、自動運転機能や安全運転支援システムの搭載で各種センサーが拡充され、新たな高出力用途の電動化が進むと考えられる。コンデンサの搭載点数の増加に伴い、高性能なコンデンサの要求は今まで以上に増えることが予想され、当社も長寿命化、高耐熱化、高リプル電流化、高容量化の開発を加速して進めていく。特に高リプル電流化対応に関しては、員数削減に大きく寄与するため早急に市場に導入できるように開発を進めている。
また、形状やサイズ、耐振動性など現行のアルミ電解コンデンサと同等以上の技術要求も増えており、新たな付加価値を生み出していく必要がある。当社は、上記のニーズに応えるためチップタイプでは大形サイズとなるφ10×12.5Lを開発した。現行のφ10×10Lから製品高さを高くすることで高容量化、高リプル電流化を達成しており、基板実装面積の削減に寄与する。本製品は2021年4月に量産の予定である。また、さらなる大形化も見越した開発も検討中である。一方、直径5mmの小形サイズの開発にも注力しており、将来的に顧客がより最適な選択が可能となるようにラインアップを拡充していく。
<ニチコン(株)>