2021.04.02 オークションで、企業への再エネ電気普及システム提供のエナーバンク・村中健一社長に聞く
村中 社長
国による「50年カーボンニュートラル」が表明され、期待が高まる再生可能エネルギー。全国の企業に再エネ電力を広げる普及策として、電力仲介プラットフォーム「エネオク」を提供するエナーバンク(東京都中央区)のシステムが注目を浴びつつある。複数の電力小売り事業者がオンラインのオークション形式で提示した見積もり価格から、企業が自由に選択できるのが特徴だ。創業して間もないベンチャー、エナーバンクの村中健一社長に、事業の展開や業界でのトピックスについて聞いた。
――どのようなサービスを提供していますか。
村中社長 企業や個人事業主を対象に、電力小売り事業者(電力会社)とオークション形式でマッチングさせるサービスを提供している。まず、再エネ電力への切り替えを希望する企業に、施設の過去12カ月分の電気料金の請求書を登録してもらう。電気使用量や料金などが分かる明細だが、企業によっては、相対契約で既に電力会社に割引を適用してもらっているケースもあり、当社がデータを分析して、単価などを割り出していく。そうした情報を、オークションに参加する電力会社と共有し、見積もり額を算定してもらわなくては、企業側にとって効果的な価格が提示されない。
競争という点では、普通、相見積もりした場合は1回限りだが、当社のオークションでは、競合する他社が提示した見積もり価格が分かる仕組みで、その価格を下回って再び見積もりを再入札することもできる。こうした手法は「リバースオークション」という。かつて勤めていた大手通信会社で、部材の調達などの際に活用されており、有効さを理解していた。契約できた企業の料金の一定比率を電力会社に手数料として支払ってもらう成果報酬型のビジネスモデルだ。
――どのようにして、オリジナリティーあふれる仕組みに、たどり着いたのですか。
村中社長 電力の需要家サイドに寄り添ったビジネスをしたいというのが当社の発想だ。電力会社を紹介したいだけではなく、需要家が中心の世界をエネルギー業界で作りだしていきたい。電力自由化で小売り事業者は約700社にも増加し、太陽光発電設備などを提案する企業もたくさんある。電力制度も改正が続いて複雑さが増し、需要家は何を信頼すればいいか分からなくなっている。
当社は、「エネルギーコミュニケーション」という概念を示している。需要家の電力の使用情報などを活用して、コスト削減といった経済性と環境性の間で、需要家に選択肢を与えて、一歩踏み出してもらう。そうしたコミュニケーションを続けることができるシステムを提供していきたい。
マーケット情報の入手も
――仕組みの売りは何ですか。
お客さま目線で、安い電力会社や、条件にあった会社を簡単に選べることだ。価格はビジネスの本質。そこがないと動かないとは思っている。ただ、価格だけではビジネスとしては育たない。マッチングの精度を高めていく必要がある。そこで付加させている機能が、交渉フェーズだ。
約1週間のオークションを経て、3日間、需要家が電力会社に対してチャットで質問することができるようにした。やはり、需要家は価格だけで選ぶことに不安も感じている。電力会社側は、価格だけでない、その他のサービスをアピールすることもできる。
オークションに参加する電力会社にもメリットはある。需要家のデータ化は本来、電力会社の内部コスト。だが、それを当社が引き受けるとともに、参加して他社の見積もり価格を知ることができ貴重なマーケット情報を得ることが可能だ。顧客も向こうからアクセスしてくるから、営業コストもかからない。参加しないことは、むしろリスクになる。
――創業して、まだ間もないですね。
村中社長 学生時代に起業体験をしていたこともあり、勤務していた大手通信会社を飛び出したのが18年7月。ビジネスで知り合った仲間らと一緒に創業した。通信会社では、電力自由化に向けて、社内でどんなビジネスができるかを検討するリーダー役を務めるなどしてきた。もともと学生時代は、AI(人工知能)などを専門で学びつつ、大手電力会社への就職も検討するなど、インフラに対して高い関心があった。
サービスを開始した19年1月には、パートナーの電力会社は5社ほど。今は30社ほどに増えた。
環境省の公共施設の電力契約でサービスを活用してもらったことが縁となり、20年6月には同省が自治体などに活用を推奨したことが転機になった。その後、問い合わせが一気に増えた。
平準化された需要群
――電力卸売市場の価格高騰問題が浮上したり、大手の新電力が会社更生法の適用を申請したりするなど、供給側にも大きなトピックスが相次いでいます。
村中社長 市場での価格高騰などが起こり得ることは業界の人は皆、頭にはあった。ただ、大きさの規模が少し異常だった。これまでもそうだったが、自社電源や相対契約で調達する電力の比率の高さが重要視されることになるだろう。
需要家が安心してサービスを利用できるようにするため、当社もパートナーとなる電力会社に対してチェックする目線は大切にするようにしている。電力会社の肝になる、電力の需給管理業務を社内できちんとやっているかなどは、確認しておかなければならない。どのように調達をして、供給できているかをチェックすることも必要だ。
パートナーに供給できなくなる電力会社が生じてしまいそうになり、既にマッチングしてしまった需要家がいた最悪の場合には、先回りして、電力を切り替えるよう情報提供できる態勢を整えたい。事前にリスクを察知してヘッジするために、電力会社などにヒアリングすることも取り組んでいきたい。
――今後の事業展開をどう考えていますか。
村中社長 参加する電力会社を50社以上にしたい。サービスを利用する需要家は、全国の約800施設、企業数で約150-200社にのぼっている。その他に、自治体も専用で活用してもらっているが、この数はできるだけ拡大させていきたい。
当社の事業の次のステップとして、システム内でAIを活用して需要家の塊をつくって平準化する仕組みづくりに乗りだす。需要家は様々な使用量や使い方があるが、組み合わせて、需要が平準化するグループをつくり、オークションにかける。電力会社側にとっては、電力の調達方法などによって利益率が上がりやすい需要グループがあるため、電力会社と、需要家ともにメリットを享受できる。21年夏ごろまでに試行を終えて、同年下期以降にサービス開始を目指している。
実現するためには、より細かな使用データなどが必要になるが、デジタルの価値が生かせる重要な手法だ。提携した自治体なども含めて、事業を進めていきたい。