2021.07.09 【家電流通総合特集】ヤマダHD これからの取り組み山田昇代表取締役会長兼CEOに聞く

山田 代表取締役会長兼CEO

新コンセプト店の出店を加速

 今年度は、昨年度と比較しながら状況を判断していく必要がある。5月までは予想通りの販売動向となったが、6月から動きが鈍くなっている印象で、この状況がいつまで続くか不透明だ。

 こうした中、当社は、家電と非家電の売り場を十分に確保した大型の新コンセプト店の新規出店を下期から加速していく。

 手始めに既存店を改装し、「たのしい。くらしをシアワセにする、ぜんぶ。」をコンセプトにした第1号店「Tecc LIFE SELECT 熊本春日店」(熊本市西区)を6月18日にオープンした。3000坪を超えるような大型店で、こうした店舗を地域ごとに展開していく。通常の店舗との合計にはなるが、今年度は30店ほど新規出店する計画だ。

 当社は、全国展開するようになってから出店が一巡し、既存店がリニューアルする時期を迎えている。このタイミングで、家電だけでなく、家具やインテリアなどの品ぞろえも豊富になっており、大塚家具の商品を加えて、ハイクオリティーな家具も提案できるようになっている。物流網も整備することで、都市部だけでなく、地方でもそうした店舗をつくれる基盤ができてきた。

 大塚家具は、9月1日付で完全子会社化することも決めた。大塚家具との連携スピードを速めて、よりシナジーを発揮できる体制になる。理想的な店づくりとさらなる成長のためには必要だと考えていた。

新コンセプトの第1号店「Tecc LIFE SELECT 熊本春日店」

 そうしたシナジーを生かした店舗の第1号が熊本春日店だ。姫路本店(兵庫県姫路市)、札幌本店(札幌市中央区)と新コンセプト店のリニューアルオープンは続き、下期からは新店が立ち上がってくる予定だ。電子棚札の導入やアプリケーションと連携させる売り場での取り組みなど、店舗のDX(デジタルトランスフォーメーション、デジタル変革)への投資にも力を入れ、立ち上げている。

 既存店には、昨年1年間で電子棚札を一気に導入するなど、こうしたスピード感も当社の持ち味だ。電子棚札は、値札の貼り替えといった作業を不要にするため、販売員の負担を減らすことにもつながる。コロナ禍で売り場に立つ販売員は何かと苦労しているが、店舗に投資することで、少しでも作業負荷を減らせればと考え、実行した。

 大型店の新規出店は、着手し始めてからオープンするまでかなりの時間がかかる。当社は中長期のビジョンを常に持ちながら戦略を立案するようにしている。しっかりとした方向性を打ち出すことが大事で、その成果が今年度から徐々に見えるようになってくるだろう。

SPAで利益稼げる経営体質

 中長期的には、SPA(製造小売り)商品や住建セグメント、環境セグメントの強化などを重視している。家具やインテリア雑貨のSPAも増えていることから、粗利は今後、もっと高めることができると期待している。価格攻勢をかけなくても利益を稼げる経営体質に変化してきたのを実感している。

新コンセプト店では、大塚家具の売り場も設けている

 住建は、ヒノキヤグループを子会社化したことで、今年度には3000億円の売り上げ規模が見えてきた。エス・バイ・エルを買収した2011年当時は、「家電量販店が住宅メーカーを買ってどうする」と言われたものだが、「暮らし」をキーワードに考え、住宅関連を拡大すれば必ず家電ビジネスにつながると信じて取り組んできた。ここにきてようやく実を結び始めており、暮らし全体を提案できる店舗を各地につくる基盤も整った。

 環境に関しては、ESG(環境・社会・企業統治)としての経営活動を目指して取り組んでいる。24年には、廃棄物焼却発電施設でのエネルギー資源開発や新しいリサイクルプラントを稼働させる予定だ。

 当社は、不要になった家電を回収し、リユースできるものはリユースして、全国に60店ほど展開しているアウトレット店で販売している。リユースできないものはリサイクルに回している。それらを自社内で全て行えるようにしているのが、当社の強みだ。

 逆に言えば、ほかの家電量販店と違い、アウトレット店を全国に展開できているのも、再資源化できる仕組みを当社が持っているからだ。社会的な環境意識の高まりに対する将来を見据え、研究に取り組んできた結果、アウトレット店と連携できるようになった。

 家電だけでなく、住宅関連のリサイクルにも取り組んでいる。3月には三久(茨城県小美玉市)を買収し、建築系廃棄物のリサイクルや再資源化も行えるようにしている。

 住建事業を拡大すれば、住宅関連の廃棄物問題にもいずれは直面してくる。循環型ビジネスを目指していく以上、家電以外のリサイクルを考えていくのも、暮らし丸ごとを提案していく中で自然な流れだ。

 こうした資源循環型ビジネスの確立は、既存のヤマダHDグループだけでは実現できない。足りない部分は、M&A(買収・合併)などの手段を通し、今後も補っていく方針だ。

LABIの見直しや郊外店の在り方など店舗戦略練っていく

 今年度は、足元の状況は動きが弱いが、後半から立ち上げていく新コンセプト店を予定通りに展開していけば、年間を通したトータルで、事業計画を達成できると見ている。ワクチン接種は始まっているが、新型コロナの収束についてはまだ不透明で、市場への影響についても見通しにくい。

 一方で、店舗の見直しも進める。これまでの店舗戦略で中核的な役割を果たしていた都市型「LABI」は、コロナの影響で都市部における人の流れが大きく変わったことを考慮しなければならない。

 今後の軸にしていく新コンセプト店の基本的な考え方は、大型郊外店という位置付け。生活スタイルの変化などで量販店の利用状況も変わってきた。長期的な視点に立ち、LABIの見直しや郊外店の在り方などの店舗戦略を練っていく。

 当社の場合、出店から25~30年経過する店舗が全国的に多い。社会環境や時代の変化に合わせ、次のステージにS&B(スクラップ&ビルド)する段階にある店舗が多いということだ。

 これまでは構造改革を重視してきた。住宅や環境、SPAなどを強化することで新たな店づくりに生かし、収益を上げられる体制づくりに力を入れてきた形だ。家具やインテリアなどSPAで展開すれば、本来は家電以上に粗利を稼げる商品も、ラインアップや販売量が不十分で拡充し切れていない面がこれまではあった。

 それが整い、攻勢をかけられるようになったのが今年度だ。新コンセプト店でそれを実践していく。