2025.07.24 メモリー上でAI演算 「アナログ」技術で電力1000分の1に

米田氏は「SONOSの事業は黒字がほぼ確実。ここからはCiMに注力する」と意気込む

FP CiM(提供:フローディア)FP CiM(提供:フローディア)

 半導体メモリー開発のフローディア(東京都小平市)が、AI(人工知能)演算をメモリー上で処理する「コンピューティング・イン・メモリー(CiM)」技術の実用化に乗り出す。従来のGPU(画像処理半導体)やNPU(ニューラル・プロセッシング・ユニット)に比べ、消費電力を最大1000分の1に抑える可能性があるという。8月末には試作チップの評価を終え、顧客提案を始める。

 CiMは、各メモリーセルが保持する係数と入力電圧を掛け合わせて出力される電流を合算することで、演算を行う。データの移動を伴わず、アナログ的な物理量の処理によって行列演算を実現するのが特徴だ。フローディアが長年手がけてきた電源を落としても記憶を保持し続ける不揮発性の「SONOS型フラッシュメモリー」を基にする。

GPUとCiMの比較(提供:フローディア)

 同社は日立製作所や現ルネサスエレクトロニクス出身の技術者らが2011年に設立。高い信頼性を武器に、車載分野を中心にメモリーのIP(知的財産)提供を行ってきた。CiMの開発には約9年の歳月を費やしてきた。

 それだけに他社との競争で優位性を発揮できる。CMO(最高マーケティング責任者)& AI事業部長の米田秀樹氏は「同じことができる会社はないだろうし、出てきたとしても、これから何年もかかるはず」と語る。

 まずは16個のCiMを搭載したエッジAI向け試作チップ「FP CiM」の評価を進める。産業機器やドローン向けの用途を想定し、約20社とコンタクトしているという。

 クラウド処理を行うAIデータセンター向けに、3次元積層チップとして展開することも見込む。256枚を積層した20×20mmチップをTSV(シリコン貫通電極)で縦接続した「3D CiM」の構想だ。これを基板上に18個実装することで、生成AIの最新モデル「GPT-4」級の処理を手のひらサイズで実現できるとする。実用化は2029年をめどとする。

 AI処理で飛躍的な省電力化を実現する同社の技術は、デジタル回路中心の業界に一石を投じる可能性がある。米田氏は「ベンチャーキャピタルからも『これが成功したらユニコーンになれる』と言われる」と手応えを示している。

<執筆・構成=半導体ナビ