2021.07.16 【5Gがくる】ローカル5G簡単解説<50>ドイツに見るデジタル化と5G化のヒント②

 デジタルトランスフォーメーション(DX、デジタル変革)を始めるためには、まず現場などのアナログの領域でのやりとりをデジタル化することが必要で、デジタルデータの蓄積が課題になる。それも、部門間あるいは会社間で統一されたデータフォーマットやデータベースがなければ本当のDXは実現できない。

 しかし、さまざまな業種の内部事情を聞いてみると、いまだ紙の伝票を使っていたり、Excel化していてもフォーマットが違っていたりして、デジタル化が進まないという話をよく聞く。ある意味、DXの入り口でつまずいて動けなくなっている状態だ。

 誰しも慣れている業務スタイルを変えるのは嫌に違いない。デジタル技術を使った新システムへの移行時にトラブルが発生して業務が滞るのを嫌がるのもよく分かる。ましてやERP(統合基幹業務システム)を活用し、全社規模でのビジネス変革となると、そう簡単にはいかない。ところが、ドイツではそれをうまくまとめる仕組みがある。

 第四次産業革命とも呼ばれる「インダストリー4.0」は、2011年にドイツ連邦政府が発表したドイツの国家プロジェクトだ。ローカル5Gを含む次世代モバイルネットワークやIoT、人工知能(AI)はもちろんのこと、ERPを活用しデータに基づいて判断する、データドリブン型(データ駆動型)のスマートファクトリーは、その代表的なものと言える。

国挙げて取り組む

 このインダストリー4.0をドイツのミッテルシュタント(中小企業)に向け推進する機関が「プラットフォーム インダストリー4.0」と呼ばれる、標準化や訓練マニュアルなどをまとめる組織だ。ここには、ドイツ連邦政府をはじめ、機械、電機、情報分野の業界団体、学会、大学に加え、民間企業として5GとIoT、ロボットのシーメンス、部品のボッシュ、ERPソフトウエアのSAP、労働組合まで参加している。ではなぜ、ドイツでは国を挙げて取り組めるのだろうか-。

CPSによるデータ駆動型スマートファクトリー

ドイツとの出会い

 時を巻き戻して、筆者とドイツの出会いから見てみたい。大学時代、英語に比べ、ドイツ語はシステマチックで、教科書はまるでマニュアルのようだと思った。また、製図用コンパスがドイツ製で実に精巧なつくりであったことを思い出す。ドイツではこのような職人芸をマイスター制度というシステマチックな訓練で継承していることにも驚いた。

 そして、ドイツ人の気質というものに初めて触れたのが、司馬遼太郎の長編小説「坂の上の雲」の中だった。そこには、明治16年、日本の陸軍大学校創設にまつわる面白いエピソードが書かれている。

 大学を設立したものの教える教官がおらず急きょドイツからメッケル参謀少佐を招聘(しょうへい)することになったという。その際、無類の酒好きだったメッケルは横浜ならモーゼル・ワインが手に入ることを確認した上で承諾したという。

 メッケルは開講早々、「能力は固有(生得的)ではなく、訓練マニュアルの良し悪しで決まる」と言ったそうだ。ドイツの何たるかを知ったのはこの瞬間だったかもしれない。

 さて、今日は記念すべき連載50回だ。モーゼル・ワインで家飲みといこう。(つづく)

 〈筆者=モバイルコンピューティング推進コンソーシアム上席顧問。グローバルベンチャー協会理事。国士舘大学非常勤講師・竹井俊文氏〉