2021.07.19 【記録計/ロガー特集】多チャンネル化で需要

AMS2750Fに対応するグラフィックレコーダー「KR3D00」(チノー)AMS2750Fに対応するグラフィックレコーダー「KR3D00」(チノー)

Ior漏電監視ロガー「KEW 5050」(共立電器計器)Ior漏電監視ロガー「KEW 5050」(共立電器計器)

 測定器本体の記録機能が拡充していることもあり、記録計・ロガー装置の需要は横ばい状態にある。しかし、機器や設備の多様な現象のデータを収集するには欠かせない装置となっている。

 日本電気計測器工業会(JEMIMA)の見通しでは、新型コロナウイルスの感染拡大で設備投資が抑制された影響から、「測定用記録計・データ処理装置」の20年度売上高は前年比6.8%減の42億円。

 一方、EV(電気自動車)などにおける、開発工数の削減を目的としたシミュレーションを活用するモデルベース開発(MBD)では、多くの入力信号を同時に計測することが必要となる。

 高いノイズ耐性や大容量メモリーも求められ、多チャンネルの記録計・ロガー需要はますます必要な場面が増えている。

 これまで主流だったチャートレコーダーやペンレコーダー、打点式記録計などのアナログタイプからの置き換え需要も進む。

 デジタルデータ保存へ移行を義務付ける基準変更や、漏れ電流測定での絶縁性能判定基準の法令改定も見込まれ新たな記録計・ロガー需要も生じている。

 測定現場のIoT化に対応した製品導入もあり、JEMIMAでは20年度以降、記録計類の需要は増加と予測する。

チノー、航空部品の熱処理管理
AMS2750F デジタル化対応

 航空機エンジンなどの部品は高い安全性が要求され、金属強度を上げる熱処理工程では細かく加工基準が定められている。

 チノーのAMS2750は、航空機部品の熱処理設備管理規定で高温測定に関する規格。昨年6月に最新の「F」版に改定。温度計測器やセンサーなどシステムの見直しが必要で企業は対策を迫られている。

 デジタルによる記録は大きな改訂点の一つ。部品メーカーは従来の打点式のチャート紙による記録計からの変更が求められるが、ペーパーで管理していた業者が急に対応するのは容易ではない。

 グラフィックレコーダー「KRシリーズ」は、F版に対応したペーパーレス記録計。チャート紙の記録をPDFで作成し、チャート紙と同サイズで出力できるのが特長。PDFチャート上にデジタル印字もでき、紙での運用から切り替えが進む。PDF化でデータ改ざんも防げるとともに、データの作表などの工数低減も図れる。

 バーコード入力ができるのもKRシリーズの強み。これまでは記録紙にロット番号や熱処理バッチ名を手書きしていたが、リーダーによる自動読み取りでミスを防げる。

 データファイルは、FTPサーバーやネットワーク上のサーバーに転送できる。長期間の保存と事故発生時の提出が求められる熱処理の記録を簡単にデータ検索することができる。

 温度センサー校正精度もAMSが要求する基準だ。処理温度帯の3点で補正値(許容値)の設定が求められるが、現場の運用では補正値を100度刻みなど細かく設けている。

 KRシリーズでは、例えば「処理温度0度の時はプラス0.1度、100度の時はマイナス0.2度」と最大16点の補正値を設定。自動的に入力値と誤差を認識して登録することもでき、補正値の入力業務を大幅に削減する。

 消耗の早い温度センサーの使用回数も自動計測、劣化診断や交換時期の通知も行える。

 一方、「SC5000シリーズ」は、PLCや調節計に接続してネットワークにデータ送信できるウェブレコーダーで、ブラウザーから遠隔監視できる。新製品ではPDF化もでき、既存機器を活用しつつ現場のIoT化に対応する。

共立電気計器の「KEW 5050」
Iorで漏電を監視、危険な絶縁不良と分けて判定

 共立電気計器の「KEW 5050」は、Ior(対地絶縁抵抗漏えい電流)を監視するロガー。

 漏れ電流は大きく分けて絶縁不良によるものと、対地静電容量によるものの2種ある。この静電容量成分による漏れ電流はIocと呼ばれ、通常のリーククランプメーターでは絶縁不良による成分(Ior)と判別できない。

 漏電遮断器は数十mAレベルで漏れ電流を監視し回路を遮断。そのため、発熱しない安全な漏えい電流のIocでも誤作動する場合があった。

 近年、インバーターなど直流に変換する機器が増加し、高調波による静電容量成分の漏れ電流の増加が課題となっている。

 Ior漏電監視ロガーは、静電容量成分と絶縁不良による危険な漏電を分けて測定することができる。

 漏電遮断器が動作すると、電気管理技術者は配線や機器によるトラブルか、静電容量成分によるものか原因調査が求められる。

 KEW 5050では、高速サンプリング(24.4マイクロ秒)を行い、FFT(高速フーリエ変換)で200ミリ秒ごとに実効値演算を行った測定・ロギングが可能だ。高精度で内部演算してノイズや高調波成分を完全に分離できる。

 測定場面に合わせてクランプの口径を選べるのも特長。直径40ミリメートルと68ミリメートルの2種を用意した。KEW 5050は最大4系統同時に測定。漏れ電流の箇所を特定するため、多数の系統を同時に評価したいニーズに応える。

 発生した漏れ電流を打ち消し合う三相4線がメインの海外に比べ、三相3線方式が多い日本ではIorが問題になりやすい。S相の静電容量成分がないためバランスが崩れて漏れ電流成分が生じるためだ。

 測定の有効性が認知されるにつれ従来のIoではなく、Iorで評価する需要が高まっている。KEW 5050は、漏れ電流で絶縁を管理する需要が高い韓国などの海外でも使用され始めている。

 ロガーとしてだけでなく通常のクランプメーターとしても多用される。本体とクランプ部が分離しており、高所や狭い所での測定にも適している。