2022.01.21 【今後の取り組み】産業技術総合研究所・石村和彦理事長
エコシステムつくる
基礎研究成果を社会実装へ導く
産総研は「ウィズ・コロナ社会」を見据え、感染防止と経済社会活動の両立を可能とするさまざまな研究活動や技術開発を続ける。
昨年は東日本大震災から10年。震災は東北地方を中心に甚大な被害をもたらしたが、人々のたゆまぬ努力の結果、復興・再生が進んでいる。震災復興と再生可能エネルギーに関するイノベーション創出を目的に、2014年に設立した産総研の福島再生可能エネルギー研究所(FREA)も、福島、岩手、宮城3県の延べ270社以上に技術支援をし、被災地域での新産業創出に貢献している。
加えて、30年以内の発生確率が高いと警鐘が鳴らされている南海トラフ巨大地震への対策と備えも必要だ。地殻活動の解析手法を独自開発し、国へのデータ提供と、技術高度化の研究を続けている。
日本は多くの自然災害に悩まされ、さまざまな社会課題にも直面するが、多くは人々の英知があれば決して乗り越えられないものではない。産総研には科学技術の力で課題解決に貢献することが期待されている。昨年度からの第5期中長期計画で、「社会課題の解決」をミッションの一つに掲げた。
産業競争力の強化
技術シーズを生み出すだけでは社会課題の解決にはつながらない。企業により製品やサービスの形で社会実装されて初めて、広く社会に有益なものとなり、人々に豊かな生活や幸せをもたらす。生み出した革新的技術が企業で競争力の高い事業に育ち、「産業競争力の強化」につながる。これも産総研の重要なミッションの一つだ。
しかし、この二つの大きなミッションに対し、現在の産総研はまだ力不足と認識している。
昨年制定した「第5期 産総研の経営方針」は、このような問題意識を踏まえて導いた一つの道しるべ。30年度以降の将来像として、「ナショナル・イノベーション・エコシステムの中核」を目標に掲げた。
産総研を中心に、各分野で強みを持つ大学・公的機関や企業と連携・協力しつつ、基礎研究で生まれた技術シーズをシームレス・迅速に社会実装へ導く。生じた利益を還流し、次なるシーズ創出につなげる。このサイクルを繰り返し、イノベーションが次々に生み出されるエコシステムを国内につくり上げたい。
第一歩として、24年度までに産総研が中核となるナショナル・イノベーション・エコシステムの「プロトタイプの構築」を目指す。
それには産総研がさらに魅力ある組織になること、つまり産総研の価値向上が不可欠で、その取り組みの一つが、昨年制定した「産総研ビジョン」になる。多くの職員が議論に参加し、ボトムアップで作り上げた産総研の目指す姿、ありたい姿だ。職員一人一人がビジョンに共感することが、産総研の総合力、チーム力発揮の出発点と考える。
本年も産総研ビジョン「ともに挑む。つぎを創る。」を胸に努力する。また、社会から信頼される公的研究機関であり続けられるよう、職員一人一人が高い順法精神と倫理観で行動する。