2025.06.04 「ダイヤモンド半導体を当たり前の存在に」 気鋭のスタートアップの戦略を探る
PDSの立ち上げには学問の活用を図る新たなスタートアップ企業の創設・創業投資を行う早稲田大学ベンチャーズが関わった。
次世代材料を使った超高性能デバイスとして期待される「ダイヤモンド半導体」の社会実装を目指すスタートアップが存在感を高めている。ダイヤモンドのパワー半導体としての展開を軸に研究開発に取り組むパワー・ダイヤモンド・システムズ(東京都新宿区、PDS)だ。同社でCEOを務める藤嶌辰也氏にインタビューを行い、開発戦略を浮き彫りにする。
縦型「MOSFET」が強み
PDSは早稲田大学理工学術院の川原田洋元教授の研究成果をもとに、事業化を目指し2022年に設立された。同社の最大の強みは、ダイヤモンド半導体のトランジスタ構造において、基板に対して垂直に電流が流れる縦型の「MOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)」を実現したこと。電流が基板の表面を水平方向に流れる横型に比べ集積密度を高めることができ、大電力を制御できる。これはパワー半導体として大きな利点だ。
縦型MOSFETはダイヤモンドの特長である高い熱伝導率を最大限に生かせる技術。ダイヤモンドは熱伝導率において、シリコンだけでなく、目下次世代材料として実用化が進SiC((炭化ケイ素)GaN((窒化ガリウム)を大きく上回る。縦型により素子の集積密度を上げても効率的に放熱でき、チップの小型化にも貢献する。
藤嶌氏は「ダイヤモンドを使った縦型のパワートランジスタは、現在われわれだけが実現している技術」と胸を張る。
キラーアプリケーションの探索
ダイヤモンド半導体の展望について、藤嶌氏は「2030年代から徐々にダイヤモンド半導体を搭載したアプリケーションを展開していき、40年代にかけて広く使われているような状況にしていきたい」と話す。
そのために現在力を入れているのが「キラーアプリケーションの探索」(藤嶌氏)だ。ダイヤモンド半導体が何に使えるのか、自動車や産業機械、再生可能エネルギー分野など、幅広い用途を検討している。その上で用途に即したデバイスを試作する計画で、それを使うパートナーと連携して研究を重ねる戦略を描いている。
藤嶌氏は「『自分たちでダメだったらダイヤモンド半導体のパワーデバイスはない』、くらいの気持ちでやっている」と強い覚悟を見せる。「海外の動きを見ると待ったなし」という危機感も抱きつつ、ダイヤモンド半導体の社会実装を10年、そして30年というスパンで考え歩んでいく。
<執筆・構成=半導体ナビ>