2022.03.29 大規模災害時も通信可能なモバイル通信に注目スマホ型のIP無線機

図 ハザードトークが災害時に通話しやすい仕組み

ハザードトークM。左側面にはPTTスイッチがあるハザードトークM。左側面にはPTTスイッチがある

 3月16日の福島県沖地震の影響が続いているが、大地震などの大規模災害時の減災や、防災に不可欠なのが、通信手段の確保だ。

 避難情報、安否確認、復旧作業など、災害の各局面でさまざまな通信が使われる。しかし、スマートホンに代表されるデジタルモバイル通信は、大規模災害に対しては脆弱。特に最も重要と考えられる音声通話は通信輻輳などにより、通信制限がかかり、被災地に向けた通信は制限される。このため、一般に被災地の人と連絡を取りたい場合は、NTTなどの災害伝言ダイヤルを使うことになる。しかし、政府や地方公共団体、また民間でもインフラを担う企業などで災害対応にあたる人は音声通話を含めた各種の通信で被災地と連絡がとれることが必要だ。

 テレネット(長野県飯田市)は、そのような災害対応を行う団体に対して、災害時にも通信がしやすいIP無線機とその運用システムを提供している。

 特に昨年8月に発売した新機種「ハザードトークM1」はすでに700台以上納入されている。本機の特長は、見た目、使い勝手はまさしくスマホでありながら、携帯用トランシーバに搭載されるPTTボタンがあることだ。実際、本機はAndroidスマホの一種であり、携帯電話会社のSIMを挿入することにより、一般のスマホとほぼ同様の機能をもつ。

 ただし、通常のSIMを入れても、非常時の通信は一般の公衆通信と同様の制限を受けることになり、意味がない。同社は、モバイル通信のデータ通信領域を音声通話に使用する工夫で災害時の通信を確保している。具体的にはMVNO(仮想移動体通信事業者)としてNTTドコモのデジタル回線(3G/4G LTE)の一部の帯域幅保証を受け、ユーザーにその帯域を提供するというものだ。非常時に主に通信制限を受けるのは音声回線であり、データ回線(IP回線)への影響は少ないことを利用するのだ(図参照)。

 そして、アプリの利用によりデータ領域での文字情報や音声通話だけでなく、ハザードビューと呼ばれる静止画、動画共有機能にも対応(オプション)。また、災害初期段階での減災に役立つ、緊急速報配信システム(DEWS)にも対応している。この機能は気象庁が配信する緊急地震速報・津波警報、気象警報、土砂災害警戒情報、指定河川氾濫情報をGPS情報と連動させネット遅延を最小に抑えた形で、音声や文字で配信するもの。配信内容も受信端末のあるその地域や規模を指定して細かく設定できる。

 また、災害時にも平常時にも利用できる拠点集計システム(オプション)を利用すると、非常時の点検項目をアンケートホーム化でき、オンラインでの被害状況の迅速な集計が可能となる。

 このほか、M1はSIMの2枚差しに対応し、非常用SIMの他に通常キャリアなどのSIMを搭載しておくことが可能で、普段使いのスマホとしても利用可能。また、Wi-Fiやブルートゥースなど近接通信に対応しており、ファイブゼロジャパンWi-Fi(政府主導の災害時に無料で利用できるWi-Fi)などを利用できれば、緊急時にもキャリアのサービス圏外でも通信が可能。被災地の過酷な状況に耐えるIP68の防水防塵、対衝撃基準に対応している。

 さらに、被災地の電源事情に対応するために4,000mA/hの大型バッテリも搭載している。電源に関しては、アクセサリとして「空気発電池」や「注水式モバイルバッテリーLEDランタン」などが用意されている。

 同機は基本的にはPTTを備えた無線機と同様の1対1の通話のほかに、グループ会話も可能で、必要に応じてグループは255まで設定可能、それぞれのグループの他に個別グループも設定でき事実上、グループ数は無限だ。

 また、050で始まる電話番号を付与する(オプション)ことによって、ハザードトーク用SIMでも外線発信ができるため、他の通信機器とも通話可能となる。

 この種の災害対応システムの導入を検討している団体や企業は、他の通信手段、たとえば、衛星電話やMCA無線などとコストや使い勝手を比較することになる。この場合、衛星電話は運用コストが非常に高く、しかも、高層建造物が多い都会では、つながりにくい。MCA無線は、専用無線機やアンテナの設置の手間やコストがかかるのに加え、マルチチャンネルによる通信のため、災害時は通信の順番待ちが発生する場合があり、また、アンテナ設営関係上、屋内にある無線機とそのまま通信しにくいといった問題があるので、ハザードトーク導入のハードルは比較的低いといえる。ハザードトークの災害対応システムは、複数台の通信端末の導入が前提だが、通信容量が1ギガバイトのスタンダードプランは月額2,500円(1端末)からと低く抑えられている。

 自然災害が頻発するわが国ではBCPは非常に重要だ。インフラを担う団体や企業でなくても導入を検討する価値があると考えられる。

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