2022.07.01 【5Gがくる】ローカル5G簡単解説<92>5GはVUCA時代を乗り切るビジネス基盤④

 この時期にしては猛暑が続くと思ったら、6月27日に気象庁から関東甲信地方、東海地方、九州南部の梅雨明けが発表された。梅雨の期間は史上最短を更新したという。いつもなら、朝から鋭い夏の日を浴びたオフィス街は、灼熱(しゃくねつ)のエネルギーを十分すぎるほどため込んで、われわれを待ち受けているはずだ。

 ところがこの2~3年で、焼けたコンクリートやアスファルトからの容赦ない赤外線放射にさらされることは少なくなった。ニューノーマルとしてすっかり定着したオンライン会議のおかげだ。

 さて、夏になると思い出すのが1990年代によく出張していたタイのバンコクだ。一カ月にわたる技術研修の会場はゆだるように暑かった。一日中、立ちっぱなしの講義をしてヘトヘトになってホテルに戻る毎日だった。シャワーで汗を流し、キンキンに冷えたビールを飲みながら家族へ国際電話をかけるのが唯一の楽しみだった。

 しかし、当時はまだスマートフォンどころかモバイルパソコンもなく、「Skype」や「LINE」といった無料のIP電話アプリもないという、固定電話と回線交換の時代だった。

 そのため、ベッドの脇にある客室内線からの国際電話料金は驚くほど高く、「暑いけど元気にやってるよ。そっちはどう?」程度の会話にとどめていたことを思い出す。

衝撃的で魅力のあるキラーアプリ、サービスの登場

魅力あるアプリ

 IP電話は、2000年代初頭に登場した代表的な〝キラーアプリ〟だ。キラーアプリは、英語で〝killer app〟という。〝killer〟は映画では「殺し屋」などと訳されるが、ここでは「魅力的な」「普及を促すほど衝撃的な」といった意味で使われている。〝app〟は「アプリケーション」の略称だ。

 つまりキラーアプリとは、あるハードやソフトウエア、サービスなどが大きく普及するきっかけとなる、魅力のあるアプリのことを指す。

 前回述べた、ローカル5Gを基盤としたデジタルトランスフォーメーション(DX)の起爆剤として登場が期待されている〝キラーサービス〟も同義語だ。

 確かに、高速インターネットの普及と共にIP電話アプリが登場し、地球の裏側からでも無料で通話できるようになった時、筆者もびっくり仰天したことを覚えている。今でこそ、当たり前のように使っている「ビデオ通話」や「オンライン会議」だが、これらのアプリもIP電話の発展形だ。

 続いて10年代に登場した代表的なキラーアプリといえば、やはり「スマホ・SNS」だろう。

 移動通信は3Gから4G/LTEへと高速化し、超高速5Gの時代がすぐそこにきている。今は5Gに対応したスマホと共に、巨大なプラットフォーム上のユーザーが主役となって高精細4K映像を発信できるソーシャルメディアが社会基盤の一つになりつつあるといっても過言ではない。

ユーザーが主導

 そこで、VUCA時代となった20年代のキラーアプリとは何かを考えてみたい。

 筆者は、「ローカル5Gを導入したビジネス現場ごとに、ビジネスユーザー主導でキラーアプリが登場する」と見ている。いわゆる〝5G killer app〟だ。人工知能(AI)を活用した産業用IoTによる予知保全や産業用ロボットなどがその候補になる。(つづく)

 〈筆者=モバイルコンピューティング推進コンソーシアム上席顧問。グローバルベンチャー協会理事。国士舘大学非常勤講師・竹井俊文氏〉