2022.07.22 【家電流通総合特集】家電量販店 下半期の展望品不足懸念、在庫確保へ
省エネモデルのエアコンへの期待感が高まっている
材料高騰・円安などで「待てば下がる」が変化
6月下旬に記録した連日の猛暑から一転し、7月に入ると、梅雨に逆戻りしたかのような天候となった今年の夏商戦。中国・上海のロックダウンが解除されたことで商品供給は正常化に向かっているものの、原材料費や物流費の高騰、円安などから来る商品価格の値上げは家電にも広がっている。家電量販店では、品不足への懸念から、在庫確保を急ぎ、さまざまな商品で早めの購入を促してきた。「待てば下がる」とされてきた価格の常識が変わりつつあり、店舗では今後、商品の価値をよりきめ細かく伝える技術や能力が問われそうだ。
「6月下旬の連日の猛暑でエアコンを中心に急激に需要は盛り上がったが、梅雨明けした7月上旬は、少し市場の勢いがなくなってきた」。今年の夏商戦についてそう語るのは、ヤマダホールディングスの山田昇会長兼社長CEOだ。
上場する家電量販店大手5社の2022年3月期連結決算は、前の期にあったコロナ特需の反動に加えて、休業要請や夏の天候不順などが響き、4社が減収だった。新しい収益基準の適用も売り上げを押し下げる要因となった。
21年度の状況は各社とも想定済みで、その巻き返しを目指してスタートした22年度。滑り出しとなった4~6月は、ロックダウンや半導体不足による商品供給の停滞のほか、原材料や物流費の高騰などによる商品価格の値上げで、一部、消費者の購買意欲にも水を差す形となった。
さらに天候の不安定さも客足に影響をもたらした。6月下旬の猛暑で一時はエアコンの販売が急増。外出する機会も増えたことから、ハンディー型扇風機やネッククーラーといった商材も在庫切れを起こすほど売れた。このままの勢いで夏本番に突入するかと期待感が高まっていたが、急激に天候が崩れ、勢いが急速に失われた形となった。
電子レンジや洗濯機などにおける品不足も販売現場では少なからず商機を逃す要因となった。特にドラム式洗濯乾燥機は、高付加価値家電の筆頭となる人気商品だったが、一時期は「納期3カ月待ち」といった商品もあったほど。ロックダウンも解除されたことからメーカー側は商品供給の正常化に向けた道筋を付けつつあり、8月中には正常化する見通しだ。
一方、生活必需品で物価高が進行しており、家電にも値上げの波が押し寄せている。同時に進んでいるのが、価格の下がらない家電の広がりだ。
ブランド力のあるメーカーでは、付加価値のある特定商品の価格をメーカー側が決めている。メーカーが在庫リスクを負担し、店舗側を取り次ぎのような位置付けにすることで、メーカーが直接販売しているのと実質的に同じと見なす仕組み。これまでのオープン価格と異なり、店舗側では価格をコントロールできない。
メーカー側にとっては価格を維持でき、利益を確保しやすい半面、売れなければ全ての在庫リスクを負うことになる。そのため、市場でも人気商品でメーカー指定価格が広がっている。
家電の新商品サイクルはだいたい1年。これまでは発売から約1年後の、後継となる新商品が発売される直前に、旧商品が底値となる傾向が強かった。しかし、メーカー指定価格が広がると、極論を言えばEC(電子商取引)、量販店、地域電器店など、どの販路で買っても、発売直後であっても1年後であっても、価格は同じという状況になる。
メーカー指定価格が広がることで、「交渉すれば下がる」「待っていれば下がる」という家電の価格に対する一般的なイメージが変わる可能性は高い。
特に現在、家電の値上がりが進んでいる。原材料費の高騰や円安などもあり、メーカーも利益を圧迫されている。そのため、メーカー指定価格の商品でなくても値段は下がりにくいのが実情だ。首都圏の大型量販店店長は「今は待っていても家電の価格は下がらなくなってきた。品不足などを考えると早めに買った方が得かもしれない」と話す。
しかも、急激に進行した円安が価格に転嫁されるのはこれからだ。家電は冬場に夏物を、夏場に冬物の商材をそれぞれ商談する。
「いま販売しているのは円安前の商談で決まった商品。円安の影響が価格に反映されるのは、むしろこれからになる」と大手家電メーカー幹部は明かす。下半期にかけて、さらに家電の価格が高まる可能性もある。
4~6月は世界的に情勢が不安定で、商品供給を中心にその影響が色濃く出ており、量販店各社も業績が伸び悩んでいるようだ。決算期の異なるビックカメラが先頃発表した22年8月期第3四半期(21年9月~22年5月)連結決算も、巣ごもり需要の一服感や商品供給の停滞などが業績に影を差した。
不透明な状況を見据え、「今まで一つだった物流センターを新設した。商品の確保を加速させていく」(ノジマ・野島廣司社長)との方針を明確にした量販店もある。
同時に、クラウドファンディングやメルカリなどのD2Cビジネスが利用者の裾野を広げており、量販店にとっても無視できない存在になっている。ただ、エンドユーザーの声をダイレクトに聞き、それを柔軟かつ素早く取り入れてきたのが量販店。新たな社会環境と需要に合わせ、これからも進化していくはずだ。