2023.03.10 「人への投資」が春闘の焦点に 電機連合の神保中央執行委員長、誰もが活躍できる環境整備を訴え

インタビューに応じる電機連合の神保中央執行委員長=東京都港区

 電機連合の神保政史中央執行委員長は電波新聞のインタビューに応じ、大詰めを迎える2023年の春闘(春季労使交渉)の交渉状況について、「人への投資の重要性、必要性については(経営側との間で)認識が一致している」と評価。急激な物価上昇が及ぼす足元の影響を踏まえつつ、産業の持続的成長の源泉となる人材投資をめぐる論議を深める姿勢を強調した。一問一答は次の通り。

 ―今春闘で基本給を底上げするベースアップの統一要求として「月額7000円以上」を掲げ、10年連続の賃金改善を目指している。6日の段階で交渉状況は。

 神保氏 今週から具体的な水準の論議に入る。賃金を巡る情勢や社会的な責任を踏まえながら交渉を進めている。人への投資の重要性や必要性については、労使双方で共有が図られている。ただ、電機業界の業態は幅広い。各社によって取り巻く事業環境も異なり、業績にも濃淡があり、(具体的な水準をめぐる交渉になると)難しい。組合員の大きな期待に応えるべく、詰めの交渉に臨みたい。

 ―9年連続で賃金改善に取り組んできた。

 神保氏 人への投資をやっていかなければいけないという共通認識が根っ子にあるから、9年連続で賃金を改善できた。今年は物価上昇と人材獲得という課題が相まって、人への投資をより強く認識するようになっている。

 ―業界で要求をそろえる「統一闘争」の意義は。

 神保氏 一つの力だけでは、業界の賃金水準を持ち上げられない。連携しながら賃金相場を形成して全体の水準を底上げすることが、もともとの狙い。労組がない企業も含めた業界全体に幅広く波及する効果も期待している。

 ―産業構造や働き方に変革をもたらすデジタルトランスフォーメーション(DX)が加速している。統一闘争に与える影響は。

 神保氏 時代によって闘争の手法や形を工夫し、柔軟に対応してきた。要求は足並みをそろえるが、妥結においては最低ラインを決め、ある一定のラインを超えた範囲で結果が異なる。ただ、DXなどを背景に処遇制度や求められる人材も変わる中でさまざまな意見が聞こえており、変化する環境を常に見ていかなければいけない。

 ―DXなどの成長分野に高度な専門人材を移動させる議論が官民で活発化している。

 神谷氏 技術の変化は激しい。そうした中で企業が「どういう分野で成長を果たし、どういう人材が必要になるか」といった方向性を明確化する動きが強まっている。組合員も意識を変えてスキルアップしなければいけない。企業としては、スキルアップの機会を提供するなど、人材育成の視点から体系化された教育に力を入れる必要があるだろう。

 ―職務内容を明確化し適切な人材を配置する「ジョブ型」人事制度への転換など、人材戦略を改革する機運も高まっている。

 神保氏 働く人たちが能力を発揮できる環境をつくり、発揮した能力をしっかりと公正に評価して処遇に反映するという課題は、従来から重視されてきた。各社の労使が話し合い自社に合う処遇制度をつくり上げる際には、組織風土の醸成などを含めて運用もしっかり行う必要がある。望めば働き続けられる環境の整備も大切だ。

 ―日本の賃金水準は20年間にわたりほぼ横ばいで推移し、OECD(経済協力開発機構)加盟国の実質平均賃金を下回っている。

 神保氏 日本の賃金水準は長い間低迷し、経済の好循環の足かせにもなっている。これまで積み上げた交渉のプロセスを大切にしながら、来年につながる交渉にもしなければいけない。
(電波新聞の連載「働きやすい社会へ これからの人材戦略」にも関連記事)