2023.07.27 【半導体/エレクトロニクス商社特集】米国などサプライチェーン確保へ 対中包囲網に新興国も巻き込む

インテルのドイツ拠点のイメージ

TIのマレーシアの工場完成予想図TIのマレーシアの工場完成予想図

 米国をはじめとした各国・地域がサプライチェーン確保に動き、また、各社も地政学リスクへの対応を図っている。各国や各社の思惑が入り混じり、大競争時代が進む。

 半導体の製造をエリア別に見ると7割が東アジアに集中しているとされ、特に先端半導体のほとんどは台湾や韓国のファウンドリーで手掛けている。ただ、コロナ禍でのサプライチェーン分断やロシアのウクライナ侵攻、台湾と中国の先行きなどを踏まえ、地政学リスクに対応する機運が高まっている。

 〇欧米で動き

 このため、米バイデン政権や欧州連合はそれぞれ、国内や域内での最先端の半導体研究開発や生産増強を打ち出す。それに呼応し、米欧とも主なものだけでも10前後の投資計画が発表されており、さらなる発表も見込まれる。

 米国ではチップス法で投資をサポートする。大統領選を控え、主要なプロジェクト発表には大統領も駆けつけるなどアピールに余念がない。

 欧州でも動きは活発で、米インテルは今年に入ってからドイツでの工場計画について、投資規模を当初発表のほぼ2倍となる300億ユーロにすると表明した。ポーランドでも46億ドルの投資を決めている。インテルは先端技術だけではなく、近年力を入れているファウンドリー事業を展開すると表明している。

 欧州でみると、パワー半導体をはじめ成熟ノードも含めた投資を通じて、モビリティーの電動化や産業のIoT化を進める傾向が見てとれる。

 欧州で次に注目されるのはアジア勢との連携だ。

 欧州は台湾と、半導体の安定確保に向けたサプライチェーンの情報共有などの連携でかねて合意している。台湾TSMCも関心を示しており、フィージビリティー調査や政府側の優遇策の動向によって最終的に判断するもよう。また、欧州委側は日本企業の誘致についても、メディアの取材に対して可能性を指摘している。

 韓国でも、政府の肝いりで半導体産業を強化。韓国サムスン電子は今春、今後20年間で300兆ウォン(約31兆円)を投じ、先端半導体の工場を手掛けると発表した。

 〇新興国でも

 動きは新興国にも広がる。

 インテルは約1年半前、マレーシアでの投資を発表した。政府との提携を通じ、同国での半導体生産能力の強化に向けた投資を加速する。半導体製造工場・試験施設の新設や、工場新設などを見込んでいる。

 同国ではテキサス・インスツルメンツも、最大146億リンギット(約4500億円)を投じ、組み立て・検査工場を設ける計画を発表している。

 日系勢では、フェローテックホールディングスがマレーシア南部に、パワー半導体用絶縁放熱基板を製造する新工場を建設すると発表。中国子会社の新工場として設立するもので、投資約137億円を見込む。

 途上国ではないが、インテルはイスラエルでも250億ドルを投じて半導体工場を新設する計画を発表した。

 さらに注目されるのはインドだ。GAFAMといったテック企業が、データセンター投資などをかねて進めているが、半導体分野でも動きが活発になっている。

 モディ首相が6月に訪米した際、米印は半導体をはじめハイテク分野での協力で合意。それに合わせて各社が投資を発表した。

 米マイクロン・テクノロジーはインドでの新しい半導体工場計画を発表。政府支援も含めて約4000億円規模の投資を見込むとした。製造装置でも、米アプライドマテリアルズが、ベンガルールに共同エンジニアリングセンターを設立する計画を発表し、4年間で4億ドル以上を投じるとした。

 米ラムリサーチも10年間にわたり、最大6万人のエンジニアを対象とした研修プログラムを実施すると発表している。

 このほか地元の財閥大手のタタ、ベダンタといった有力企業も半導体分野での取り組みを打ち出している。

 半導体業界からは「中国に対抗する意味で、中国をけん制できるインドは重要。いわば敵の敵は味方」との声も聞かれる。「世界の工場」の立場に、今度はインドが就くことになるのだろうか。

 対中包囲網への呉越同舟的な面もはらみながら競争が進む。