2023.09.22 【部品メーカー商社ASEAN特集】ASEANの法定最低賃金、上昇続く 経済正常化や外資系投資など影響
ASEAN地域では、経済成長とインフレの進展、外資系企業の工場進出増加などを背景に、各国の法定最低賃金が右肩上がりで上昇している。2020年と21年はコロナ禍の経済への影響を考慮し最低賃金を据え置く国が目立ったが、22年以降は上昇に弾みがついている。
ASEANの工場ワーカーの法定最低賃金は、「チャイナ+1」としてASEAN再投資の機運が高まってきた10年ごろから上昇が加速。10年代後半はやや上昇率が鈍化したが、それでも国によっては毎年1割近い金額の改定が実施された。
新型コロナ感染症拡大が深刻化した20年春以降は大半の国がコロナ禍による経済へのダメージを考慮して改定を見送っていたが、コロナ禍が落ち着いてきた22年以降は、再び各国が一斉に法定最低賃金の引き上げを実施または発表している。
加えて、最近は経済活動の正常化が進み、また、業界の「脱中国」の機運が高まり、中国系企業を含む外資系企業のASEAN生産シフトが加速していることもあり、法定最低賃金と実際の給与額の乖離(かいり)が大きくなっているとも指摘される。
越で2年ぶり
ASEANの中でも外資系企業の投資が活発なベトナムでは、22年7月に2年ぶりの最低賃金引き上げが実施され、最も高額な第1地域(ハノイ、ホーチミンなど)の法定最低賃金が従来比5.9%上昇。フィリピンでは23年7月に、2年連続の引き上げが実施されている。インドネシアでは、23年1月の改定で西ジャワ州カラワン県の法定最低賃金7.88%引き上げられ、国内最高額となっている。
多くの日系企業が工場を展開するタイでは、22年10月の改定で法定最低賃金(日給)が従来比6.6%増の353リンギットに引き上げられた。国内最高額のチョンブリやラヨーンなどでは354リンギットに改定された。マレーシアは22年5月の改定で、最低賃金が全国一律で月額1500リンギットとなっている。
最近のASEAN主要国では、法定最低賃金改定が2年おきなどで実施されるケースが多いが、実際の日系進出企業の現地法人などでは、毎年、安定的な初任給引き上げを実施している。
国によって最低賃金の定義は異なり、また、実際の給与水準と法定最低額との乖離が激しい地域もあるため、単純比較はできない。それでも、ASEAN工場ワーカーの賃金は、シンガポールを除けば、中国沿岸部との比較では割安。ただし、数年前との比較では、ASEANのワーカー賃金も着実に上昇している。
最低賃金の引き上げは、国民の消費力向上により経済発展につながるが、急激すぎる人件費上昇は現地進出企業には負担となる。このため、現地進出の日系電子部品メーカーは、継続的な生産性改善や生産ラインの自動化・省力化推進、徹底した無駄の排除、業務の高付加価値化を進めることで、収益力の向上を追求する。