2024.05.10 「多数の展示が現役」 往年のPCや無線機 100年前の電信機もずらり 名機が並ぶ電通大博物館を記者が探訪
日本海軍の「三六式無線電信機」
海に囲まれ貿易で栄えた日本の近代は、通信と電子機器の進歩なくして語れない。その歴史を伝えるのが、国立電気通信大学の博物館「UECコミュニケーションミュージアム」(東京都調布市)だ。NECのパソコン(PC)「PC-6001」や米国コリンズ・ラジオ(現コリンズ・エアロスペース)の「KWS-1」など名機を展示する。詳しい取り組みを知るべく記者が1日に訪れた。
「多数の展示品が稼働可能な状態なのが特徴」。展示品を前にそう胸を張るのは、三橋渉学術調査員・名誉教授だ。専門知識を持つ学術調査員が修理や部品交換に努め、実際に稼働する展示物から学生が学べるようにしている。
展示室に入るとまず出迎えるのはペリー提督が徳川幕府に献上した日本初のモールス電信機の復元品。もっとも当時の幕府には「モールス信号をよく知るものがいなかった」(三橋名誉教授)といい、活用されずじまい。
ただ明治になると人材育成と電信機の輸入、国産化も進む。貿易に加え軍需が後押しした形だ。同館では1903年に日本海軍が採用した「三六式無線電信機」も鑑賞できる。
無線の発展に伴い検波、増幅、送信に活用された真空管も展示の目玉だ。元中部日本放送(CBC)の村松健彦氏などの寄贈が中心で、エジソン効果電球を応用した1900年代の受信管から、70年に東芝が開発した大型の中波大電力送信管まで網羅。さらに半導体への移り変わりも見て取れる。
真空管や半導体が発展させたコンピューターの展示も充実。PC-6001など誰もが知る70~80年代のPCはもちろん、62年にカシオ計算機が製造した希少なリレー式計算機「AL-1」も現役。10個のニキシー管が科学計算結果を表示するさまから、当時の日本が完成度の高い製品を生産していた事実を確かめられる。
アマチュア無線の名機も多数並ぶ。著名な蒐集家、安川七郎元国税庁長官などの寄贈が中心。KWS-1のような海外製だけでなく、トリオ(現JVCケンウッド)など国産品も鑑賞でき、通信が民生の隅々に浸透していった時代に触れられる。
電通大は船舶などの無線通信士養成のため1918年に設立した無線電信講習所が前身。日本の通信とともに1世紀余りを歩んできた。
今回訪れたミュージアムは98年に歴史資料館として開館し、08年に新館に移転し改称。電子計算機研究・教育も長いことからコンピューターなどに展示を広げている。
同館は今後、歴史的な技術に加え最新の技術に対象を広げ、若年層が体験し学べる展示を充実させる方針を示す。日本の産業を支える理工人材の不足が叫ばれる中、次世代への興味喚起は喫緊の課題であり、高校生や高専生に対し「先人の技術への情熱や執念を感じ取り、科学技術の重要性への理解を深めてほしい」と期待している。
(後日電波新聞/電波新聞デジタルで詳報します)