2024.10.04 【自動車用電子部品技術特集】自動車用アルミ電解コンデンサーの最新技術動向 ニチコン

【写真1】導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサー「GXCシリーズ」

■はじめに

 自動車・車載関連分野では、Connected(自動車のIoT)、Autonomous(自動運転)、Shared & Service(所有から共有へ)、Electric(電気自動車とカーボンニュートラル)の頭文字をとり、「CASE」をキーワードとして、カーエレクトロニクス技術が年々大きく進化・発展している。具体的には、各種電動化ユニットにおけるパワートレインのxEV化や、EPS(電動パワーステアリング)、EOP(電動オイルポンプ)、EWP(電動ウオーターポンプ)などの省燃費化技術がカーボンニュートラルを目指して適用されている。また、ADAS(自動運転支援システム)や自動運転技術の高度化、コネクテッド機能など、自動車の高機能化に向けた動きも進んでいる。さらに、電気自動車の普及に伴い、車載部品の電動化は不可欠となっており、自動車1台当たりの電子部品搭載点数も増加している。今後は自動車の生産台数を上回る割合で電子部品の需要の拡大が見込まれている。加えて電気自動車の普及に伴って充電ステーションの増加など、関連分野における電子部品の需要も増加すると予想される。

 車載用途のアルミ電解コンデンサーには、小形・大容量化、高温度・長寿命化、低ESR、高リプル電流化といった性能向上に強いニーズがある。これらの要求に応えるアルミ電解コンデンサー、導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサーおよび導電性高分子アルミ固体電解コンデンサーの最新技術動向を紹介する。

■導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサー

125℃4,000時間保証 高容量品「GYFシリーズ」

 導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサーは、導電性高分子と電解液の二つの電解質を使用することで、導電性高分子の特長である低ESR性能と優れた高耐熱性能に加えて、電解液によるアルミ酸化皮膜の修復性能を有している。これにより、アルミ電解コンデンサーに比べて低ESR化、高許容リプル電流化、長寿命化が可能になるだけでなく、導電性高分子アルミ固体電解コンデンサーに比べて漏れ電流も低い。当社は125℃4,000時間保証の「GYAシリーズ」や135℃保証の「GYCシリーズ」をベースに、さまざまな要求に応えるシリーズをラインアップしている。特に市場で要求が高いのは小形・高容量化や高リプル化である。

 「GYFシリーズ」は、高容量な電極箔(はく)と薄手のセパレーターを使用することで高容量化を実現している。同時にGYAシリーズと同等の125℃4,000時間と85℃85%RH.2,000時間も保証している。ケースサイズはφ6.3×5.8L、φ6.3×7.7L、φ8×10L、φ10×10Lの4サイズで、定格電圧と定格静電容量は16~63V、68~1000μFをラインアップしている。GYAシリーズと同じサイズでありながら高容量化も達成しており、最大2倍以上の静電容量の向上を実現している。

135℃4,000時間保証 高温度高リプル品「GXCシリーズ」

 近年、コンデンサー1個当たりに印加されるリプル電流が増加する傾向にあるため、GYCシリーズよりも高リプル化を実現した「GXCシリーズ」を市場に投入した。新しいGXCシリーズ【写真1】は、電極箔設計の最適化と高耐熱性ゴム採用して、高温環境下での特性劣化を抑制することで高リプル化を実現した。GYCシリーズと同等の135℃4,000時間を保証している。GYC・GXCシリーズの定格リプル電流の比較を【表1】に示す。同じサイズでありながらGXCシリーズはGYCシリーズと比較して1.3~2.1倍の定格許容リプル電流値をもち、回路設計のさらなる高性能化や、コンデンサーの員数削減によるユニットの軽量化や小型化に貢献する。

■アルミ電解コンデンサー

150℃高温度長寿命低温ESR規定品「UBHシリーズ」

 電子回路をエンジンルーム内に設置するために、高温環境で動作する搭載部品の需要が高まっている。当社では定格温度105℃・125℃をメインとして「UCVシリーズ」や「UCHシリーズ」などさまざまなシリーズをラインアップしている。しかし、エンジンやエンジン駆動周辺のECUに対応するためには、より過酷な高温度環境への対応が求められる。そこで、当社は超高温度対応に向けた開発を進め、150℃1,500~2,000時間対応の「UBHシリーズ」【写真2】をラインアップした。

【写真2】チップ形アルミ電解コンデンサー「UBHシリーズ」

 本製品は、当社が培ってきた高容量化、低ESR化、高信頼性化の技術を活用して開発した。150℃の環境下でも低い比抵抗と低い蒸散性を持つ電解液の採用や封止設計の最適化、さらに電極箔の高倍率化および収容面積を拡大することで、現行の150℃1,000時間品「UBCシリーズ」よりも約2倍の高容量化を達成するとともに、高い信頼性を実現している。また、低温でのESRも規定しており、幅広い温度範囲で使用することができる。この150℃1,500~2,000時間対応品は、当社独自の製品であり、ケースサイズはφ8×10L、φ10×10Lの2サイズで、定格電圧は25Vと35V、定格静電容量は100~270μFである。現行品に比べて1.2~2.1倍の静電容量を収容できることから、エンジンルーム内へ搭載される機器の小型化、軽量化、員数削減、高性能化に貢献できる。

■導電性高分子アルミ固体電解コンデンサー

 導電性高分子アルミ固体電解コンデンサーは、電解質に導電性高分子のみを使用しており、高周波数領域でESR特性と許容リプル電流が優れている。一方、アルミ電解コンデンサーや導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサーでは電解液のドライアップにより静電容量が低下する懸念があるが、導電性高分子アルミ固体電解コンデンサーは電解液を使用していないため、長期間にわたって信頼性が高いのが特長である。

 ADAS、ボディーコントロール、コックピットなどの各種ドメインコントローラーを中心に低ESRおよび高リプル電流の要求が強く、導電性高分子アルミ固体電解コンデンサーの採用事例が多い。特に、駆動電圧がDC5V以下の回路で、125℃2,000時間リプル電流重畳保証の「PCWシリーズ」の採用が進んでいる。定格電圧は2.5V、4V、6.3Vをラインアップし、サイズは今年5月からφ8×7Lとφ8×10Lを追加して定格静電容量を390μFから1,800μFまで拡大した【写真3】。これにより、これまで要求の多かった高容量・高リプル電流を必要とする回路設計でコンデンサーの員数削減やノイズ対策などに貢献できる。デカップリング用途においては、積層セラミックコンデンサー(MLCC)からの置き換えを提案している。MLCCでは電圧バイアス、高温度領域における静電容量の減少、および電圧ディレーティングを考慮する必要があるが、PCWシリーズではそれらを考慮する必要がない。製品の高さには制約があるが、複数のMLCCを一つのPCWシリーズに置き換えることで、員数削減による機器の小型化やコストのメリットを提案している。

【写真3】導電性高分子アルミ固体電解コンデンサー「PCWシリーズ」

 バッテリーマネジメントシステムや電動オイルポンプ、インバーターまたはDCDCコンバーターなど、駆動電圧が12V以上の回路でも低ESRと高リプル電流の要求が多い。これらの要求に応えるために、125℃8,000時間保証の「PCMシリーズ」(定格電圧16~80V)や135℃4,000時間保証の「PCHシリーズ」に加え、高リプル対応として開発した125℃4,000時間リプル重畳保証である「PCAシリーズ」【写真4】を市場投入した。製品サイズに応じて耐振動構造品もラインアップしている。表2に各シリーズの性能比較例を示す。高温環境下で高い信頼性や許容リプル電流を必要とする用途には、導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサーに加えて導電性高分子アルミ固体電解コンデンサーも提案している。

【写真4】導電性高分子アルミ固体電解コンデンサー「PCAシリーズ」

■今後の展望

 自動車や車載関係では、個々のECUやそれらの相互通信におけるデータ処理速度の向上が今後の技術トレンドの一つとされている。ゾーンアーキテクチャーの考え方に基づいて、ECUの統合や集約化が期待されており、それぞれのデータ処理速度を向上させるための技術開発が求められている。駆動電圧の12Vから48Vへの引き上げへの対応や、モーターや電動ポンプなどの大電流化など、高リプル電流を許容することが求められる。

 また、サーバーなどの用途では、データ処理速度の向上を求めてESR特性の優れた導電性高分子アルミ固体電解コンデンサーの需要が高まっている。

 導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサーや導電性高分子アルミ固体電解コンデンサーには、電流負荷時の自己発熱に対応できる高温度対応品の開発が求められている。製品の小型化とともに、これらの市場要求に応える製品の提案を進めていく。〈筆者=ニチコン〉