2024.11.18 技術を外販へ 地方テレビ局 現場目線のシステム開発加速、広告依存脱却にかじ
テレビ北海道の「バーチャルマスターオペレータ―」
地方の民放テレビ局が、広告収入に依存する体制から脱却するため、放送外収入の確保に向けた動きを強めている。内製化に成功した放送システムの販売はその1つで、テレビ局が抱えるさまざまな課題解決にも寄与する。13~15日に開催された放送機器の国際見本市「Inter BEE 2024」では、テレビ局の関わった技術が2つのアワードを受賞するなど市場からの注目も集まっている。
テレビ北海道(札幌市中央区)は、仮想環境を活用したリモート監視業務を実現する「バーチャルマスターオペレーター」(VMO)を開発し、放送各社への提案を進めている。VMOは、監視業務で確認する映像や音声などの情報を仮想環境上で全てモニター、制御できるようにしたシステム。インターネット環境があればどこでも業務に当たれる。
実際にマスター室での業務に関わる技術局員が開発に携わった。マスター室のデザインを再現しており、放送局にとって使い慣れたユーザーインターフェースであることも特徴だ。FM北海道(札幌市中央区)がVMOを導入するなど販売実績も出始めている。
監視業務の人手不足解消のため、VMOを使って複数の放送局のマスター設備の統合監視も目指している。今年3月にはテレビ北海道とテレビ東京、テレビせとうち(岡山市北区)の3社で統合監視の実証実験を行った。テレビ北海道の高橋康二技術・DX推進局長は「特に地方局が抱える技術部門の人手不足、働き方を改善したい」と意気込む。
放送業界だけでなく、工場や発電所での導入も狙う。VMO推進室長を務める門山厚希執行役員は「CM収入の1本足打法ではない収入源の1つになれば」と話す。
石川テレビ放送(金沢市)はビデオサーバー「Victory」を開発している。2ポートの同時再生など、機能をシンプルにし低価格で提供する。
一般的にビデオサーバーは導入コストが高いが、さまざまな用途を想定し作られるため、局によっては使わない機能も多いという。総合戦略室の背戸浩富実部長は「石川テレビならVictoryでも十分。安く販売することで、メーカーに価格を抑える努力を求めたいという思いもある」と語る。
石川テレビ放送も放送機器展に出展し、ビデオサーバーを展示。ケーブル局からの関心が高かったという。
配信システムの開発を担当
NTTSportict(大阪市都島区)が提供するライブ配信システム「STADIUM TUBE Touch」の開発を担当したのは、朝日放送テレビだ。
このライブ配信システムは、タッチパネルで直感的なタブレット操作ができるため、野球のボールカウントのような競技に合わせた表示のほか、テロップやCMを自由に挿入可能。ブラウザからアクセスして配信できる手軽さが強みだ。
朝日放送テレビ技術戦略部の荒木優氏は「制作の現場に携わったことがあるからこそのアイデアを生かした」と自信を見せる。
NTTSportictは、放送局だけでなく、地域のスポーツ大会の生配信といった用途も想定。同社ビジネス開発部の荒木拓人マネージャは「テレビ局の技術をBtoCで提供できるシステムだ」と語る。
テレビ業界は、放送以外での収益源の確保という課題を抱える。これに対し、全国の放送局で、実際の現場で培ってきた技術を生かしたシステム開発など新たな動きが表面化してきている。