2024.12.02 【解説】NTTによるラピダス出資の狙い

ラピダスのIIM-1完成予想図

光電融合デバイスの試作品光電融合デバイスの試作品

AI時代に不可欠の新技術「光電融合デバイス」

 次世代半導体の量産を目指すラピダスに対し、多くの民間企業が出資を行っているが、各社の思惑について考えたことがあるだろうか? ラピダスへの投資額や政府の経済支援に目を奪われがちであるが、出資企業の狙いをひもといていくと、そこには未来の技術トレンドをいち早く知り得るヒントが隠されている。ラピダスに出資している企業のうち、今回はNTTによるラピダス出資の狙いと思惑について解説したい。

 NTTは言わずと知れた日本最大の通信事業者であるNTTグループの持ち株会社。NTTドコモやNTTコミュニケーションズ、NTTコムウェア、地域通信事業(NTT東日本、NTT西日本など)、NTTデータグループなどから成り立っている。電話・通信サービス網を日本全国に構築し、日本の電話の歴史を切り開いてきた。

 そのNTTがなぜ半導体に?というのが、そもそもの疑問。通信サービスを支えるために半導体は必要ではあるものの、10億円(11月末時点)の出資を行う必要があるだろうか。ラピダス出資には、NTTが目指す未来の技術革新に対する熱い思いが込められている。

IOWN構想と光電融合デバイス

 NTTが掲げる次世代ネットワーク構想「IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想」という言葉を聞いたことはあるだろうか? IOWN構想は従来の情報通信システムを変革し、ネットワークから端末まで全ての通信を光(フォトニクス)技術を用いて行おうというもの。

 現在のデータ伝送においても光ファイバーを用いた光通信は用いられている。送り手の端末から送出される電気信号を変換器で光信号に変え、光ファイバーを通して送出する。光ファイバーを通して送られた光信号は受け手側の変換器で再び電気信号に変えられ、受け手の端末に届く。これらの技術により、長距離での高速通信が可能になった。

 しかし、電気信号を光信号に(または光信号を電気信号に)変換することで、発熱や消費電力の増大、通信速度の遅延などさまざまな問題が生じている。これらの課題を解決するため、IOWN構想では端末内部の電気信号処理を光に置き換えていくことを目指している。ネットワークのみならず端末でも光信号処理を行う「オールフォトニクス・ネットワーク」が実現すれば、さまざまなイノベーションが期待される。このオールフォトニクス・ネットワークを実現するカギとなるのが「光電融合デバイス」だ。

光電融合デバイスとは?

 光電融合デバイスは、光と電気の機能を統合した技術。光をデジタルデータとして取り込み、高度な信号処理でひずみなどを補正することで伝送容量の大容量化を実現する。内部の光チップレットは、高速な電気信号を光信号に変換する光送信器および受信器の役割を担い、より多くのデータをコンパクトに送信することを目標としている。

 NTTはこの光電融合デバイスの設計・開発・製造・販売を行うため、NTTイノベーティブデバイスを設立した。それまでNTT研究所で進めてきた光電融合デバイスの開発に関わる機能を23年6月にスピンオフし、同年8月には光電子部品の開発・製造ノウハウを持つNTTエレクトロニクスと統合。新会社設立により、光電融合デバイスの開発を加速させる。

AI時代には光電融合デバイスの低消費電力技術が不可欠

 光電融合デバイスの利用領域は通信分野にとどまらない。最も注目される応用領域がAI(人工知能)だ。AIの普及拡大とともに、演算処理を行うAIサーバーの発熱やデータセンターの膨大な電力使用などの問題が顕在化している。AIサーバーの演算処理は電気信号で行っているが将来、光電融合デバイスによるオールフォトニクス・ネットワークが実現すれば、発熱の問題を解決し、演算処理速度の低下も解消される。圧倒的な低消費電力によりデータセンターの消費電力低減にも寄与する。光電融合デバイスによりクリーンなデータセンターが増え、カーボンニュートラルの実現にもつながる。

ラピダスへの出資により、光電融合デバイスの製造を実現

 光電融合デバイスの製造はNTTイノベーティブデバイスが担う予定ではあるが、高性能の光電融合デバイスを生み出すために、先端デバイスの製造技術は不可欠。その布石として、NTTはラピダスへの出資を行っている。

 AI時代を支える社会インフラでもあるデータセンターの電力問題を解決し、大容量データの高速伝送を実現する光電融合デバイス。クリーンで快適な未来社会を実現する技術として、半導体は無限の可能性を秘めている。