2024.12.16 半導体×リスキリング 各層の人材を育てる

LSTCの人材育成事業発表会見に登壇した池田教授(左)、東哲郎理事長(中央)、テンストレントのジム・ケラーCEO

福岡半導体リスキリングセンターは先日行われた半導体の国際展「セミコンジャパン 2024」にも出展し、幅広くアピールした福岡半導体リスキリングセンターは先日行われた半導体の国際展「セミコンジャパン 2024」にも出展し、幅広くアピールした

 日本国内における最先端半導体製造の実現に向け、産官学が一体となった取り組みを進めている。半導体デバイス市場において、国際競争力を失い市場シェアも低迷した過去30年。その間に学生、就職を経験した今の20~40代の半導体技術者不足が大きな課題となっている。未来の人材育成のため学生に対する教育投資も長期的には重要だが、半導体分野のリスキリング(学び直し)も同様に注力する必要がある。こうした課題解決へ向け、リスキリングプログラムがさまざまな形で作られている。

高度・トップ人材の育成

 半導体分野の新産業創出や研究開発に関わるトップ人材や、集積回路設計などを中核として担う高度人材のリスキリングは、首都圏の行政・教育機関で行われる。

 政府による経済支援が注目を集めるラピダスなどが参画する技術研究組合「最先端半導体技術センター」(LSTC)は、社会人を対象に設計・開発人材の育成事業を計画している。電機メーカーなどからの出向が主な対象。北米の半導体新興企業であるテンストレントでのOJT研修を含む、さまざまな人材育成支援プログラムを用意する。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の事業として採択され、来年から募集を開始する予定。LSTCで取り組みを主導する東京大学の池田誠教授は「スタートアップを含め、意欲のある人は年齢に関わらず誰でも受講してほしい」と話す。

 東京大学と産業技術総合研究所(産総研)が運用する国内のAI(人工知能)チップ設計拠点を活用したコースや、基礎的な電子設計自動化(EDA)ツールの利用法講座も用意する。レベルごとに段階的に講座を作るが、内容は設計・開発に絞っており高度人材やトップ人材の育成という面が強い。

 横浜国立大学では、半導体に関して全般的に教えるリスキリングプログラムを開講する計画がある。

 同大学では今年度から「半導体・量子集積エレクトロニクス研究センター」が開設され、後工程分野の研究・教育に向けた取り組みがスタートしている。教育面では来年度以降、学生向けだけではなくリスキリングとしても講義を行う予定。副センター長の井上史大准教授は「横浜を半導体の研究開発拠点にしたい」と思いを語っており、地域全体の半導体業界を盛り上げるためにリスキリングは有効な方法と考えている。

福岡で非製造業にも研修

 より幅広いプログラムを既に行っているのは、福岡半導体リスキリングセンターだ。もともと製造業に関して広くリスキリング講座を開講していたが、昨年から半導体に関する講座を充実させた。TSMC(台湾積体電路製造)の熊本工場建設に伴う九州の盛り上がりを受けた動きだ。

 半導体を「作る側」と「使う側」に分け、それぞれ1~2日程度で受講できる講座を体系的に積み重ねられるようにする。非製造業の受講者も多く、新たに製造装置・材料メーカーに就職する人が受講する例もある。センターを運営する福岡県産業・科学技術振興財団の曽原明典氏は「事前のニーズ調査を踏まえたプログラムだ」と自信を見せる。

 九州だけでなく全国の受講者に対して、オンライン講義やeラーニングで対応する。法人研修を中心に全国に広めたい考え。展示会にも出展しアピールしている。

  LSTCでは「トップ人材」「高度人材」「基盤人材」に分類し人材育成事業を計画している。この全てのセクションで、学生だけでなく、社会人のリスキリングが今後の半導体産業を下支えするために求められている。