2025.01.08 OTA技術を実現する高周波デバイス
「ドラゴンフライ」を搭載した無線装置(RU)
自動車の制御や機能を司るソフトウェアを更新することで、機能や性能を高めることができる自動車「SDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)」が注目を集めている。従来の自動車はハードウェアが性能や価値を定め、販売後に機能や性能を高めることは難しかった。近年ではソフトウェアが自動車の機能・性能を定義し、新たな付加価値を与えてくれる時代が到来しつつある。SDVを支える技術として、無線通信でソフトウェアを更新する「OTA(オーバー・ジ・エアー)」の活用が進んでいる。現在はカーナビでの地図データ更新などに活用されているが、今後は自動運転を実現するための車両状況確認や車体制御技術などにも利用されていくと見込まれる。こうしたOTA技術を支えているのが、無線通信に必要な半導体だ。一般的にOTAで利用される無線通信は5Gやミリ波など高い周波数帯が利用されるため、高周波デバイスがキーデバイスとなる。
豊富な高周波デバイスポートフォリオを有するADI
米アナログ・デバイセズ(ADI)は高性能な高周波デバイスを豊富にそろえており、通信、計測、産業機器、自動車、航空宇宙など幅広い産業に供給している。顧客のデザインニーズに合わせ、高性能ディスクリートからシステムソリューションまで幅広く対応する。昨年末に開催された無線通信技術に関する展示会では、さまざまな製品やソリューションを展示。デモを交えた展示で、来場者の注目を集めた。
28/39ギガヘルツ対応ミリ波フェーズドアレイ・アンテナ・モジュール「Dragonfly(ドラゴンフライ)」は、高集積化と低消費電力化を両立したアンテナ・モジュール。2023年にサンプル提供を開始し、開発キットによる実証実験などが行われている。同製品は同社のさまざまな技術が搭載されている。高集積ミリ波アップダウンコンバータ「ADMV1128A/ADMV1139A」や局部発信器として「ADF4372」、電源には同社独自の低ノイズ技術「Silent Switcher(サイレント・スィッチャー)」を採用した「LTM8024」、次世代のミリ波5G向けビームフォーマチップセットなどを統合し、外形120×140ミリメートルの小型基板に集積した。
OTAデモやオープンソースを利用した5Gネットワークのデモ
OTAにも利用可能で展示ブースでは、ドラゴンフライ開発キットを用いたOTAのデモなどを披露した。デモでは実際にローカル5Gの電波を発信。OTAでの利用を想定し、通信状況などをモニターで見せた。もう一つのデモはパートナー企業であるアイダックス(東京都杉並区)と共同展示。オープンソースの5Gシステム「Open Air Interface」を利用して28ギガヘルツのローカル5G無線ネットワークを構築し、実際に実証実験などを行える環境をデモで見せた。従来、28ギガヘルツローカル5G無線ネットワークの環境下で実証実験を行う場合、大規模なシステムが必要でネットワーク構築にも時間がかかっていた。デモで紹介したネットワークを用いれば、コストを抑え、短期間での実証実験が可能となる。従来のシステムでは難しかったカスタマイズも容易にできるため、柔軟に環境を変えてテストすることができる。SDVのOTA実証などにも活用可能だ。
今後、SDVやOTA技術が普及していくためには、高周波デバイスのみならずシミュレーションなどの開発環境も必要となる。ADIは高周波デバイスの提供を通じて、さまざまなソリューション開発をサポート。幅広い産業での無線通信技術利用を後押しし、技術革新に貢献していく。