2025.05.02 「AIが人の知能を超える」 経理支援のファーストアカウンティングが新構想 森啓太郎社長に聞く

森社長

経理AIエージェントの体制イメージ画像経理AIエージェントの体制イメージ画像

 AI(人工知能)技術で経理業務の自動化・効率化を支援するファーストアカウンティングは、AIが人間の知能を超える転換点を表す「シンギュラリティー(技術的特異点)」を見据え、新たな構想を打ち出した。会計分野に技術革新もたらすことを目指す同社の戦略に迫った。

「シンギュラリティー」視野に事業進化

 「経理シンギュラリティ構想」。同社は3月の記者発表会で、そんな新構想を表明した。森啓太郎社長は「経理の領域でのシンギュラリティーは今年確実に現在進行形で起こる」と予想する。

 具体的には、自律して経理業務を処理する独自開発の「経理AIエージェント」を生かし、人手不足や債券・債務処理、法改正対応といった業務上の制約を取り払い、担当者が経営戦略の意思決定を支える経理などに集中できるようにする。

 発表会では、経理のタスクをAIエージェントに割り振る「チームリーダー」など、5種類のエージェントを紹介。取引先からの請求書を回収する役割などを担えるエージェントも用意した。

 森社長は、AIエージェントを「重たいものを持ち上げるパワースーツ」に例えた上で、今後もエージェントの機能を拡張する方針を示した。「(エージェントは)領域単位で人の知能を超えることになる」という。

 経理AIエージェントを利用したい企業は、エージェントを自社のERP(統合基幹業務システム)などに組み込む形で導入する。業務ごとに特化したエージェントを個別に採用することもできる。 

 さらにAIエージェントを紙の文字情報を読み取る「AI-OCR」などのサービスに連携させると、業務効率を高める効果が見込まれる。日本にはPDFの請求書が根強く使われる土壌があるだけに、こうした展開も期待されそうだ。

 新構想の背景には、「複雑な経理業務をAIで支援したい」という森社長の熱い思いがある。森社長自身も経理業務で苦労する中、米国で目にした自動運転の技術からAIを社会実装するヒントを得た。そうした経験を土台に経理業務の変革を後押しする使命感を強め、2016年6月に同社を設立した。

言語化が難しい暗黙知を形式知へ

 そもそも経理は、ベテラン従業員の「暗黙知」に依存している部分が多い領域だ。会議で出す飲み物の購入代を経理で処理する場合、分類先は「消耗品費」や「福利厚生費」などと多岐にわたり、その判断は個人に委ねられてしまう。

 このため、パターン化された動きが得意なAIの導入は難しいとされてきたが、同社は暗黙知を「形式知」に変換することに成功。磨いた技術力を生かし、経理AIエージェントを開発した格好だ。

 経理担当者は、こうした仕組みで入力や確認といった定型作業に追われる日常から解放。そこで浮いた労力を、企業価値の向上につながる業務に回すことができるようになる。

 既に経理AIエージェントは昨年12月、有力企業の財務責任者らでつくる日本CFO協会が実施する検定試験「FASS検定(経理・財務スキル検定)」で最高ランクの「レベルA」を取得。経理業務でAIを高度に実用化することを実証した。

 新構想は、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)にもつながる。森社長はDXが進む次世代を視野に入れながら、企業向けサービスとして提供するAIエージェントを「企業の垣根をまたぐサービス」へと進化させることに意欲を示す。「『売った』『買った』という関係で金額が同じになることはない。これを解決して初めて不正の無い世界になる」とも強調した。

 経理領域のシンギュラリティーに向けた挑戦の舞台は一段と広がりそうだ。