2025.05.06 「AIクローン」を講師役に 新興のオルツが教育分野で相次ぎ協業

「 EDIX(教育総合展)東京」に展示したオルツのAIクローン=東京都江東区の東京ビッグサイト

ブースで「教科書AI ワカル」を紹介する東京書籍の担当者ブースで「教科書AI ワカル」を紹介する東京書籍の担当者

 利用者の人格をデジタル上に再現する「AI(人工知能)クローン」の開発を手掛けるベンチャーのオルツ(東京都港区)が、教育分野への展開に力を入れている。同社は半導体商社大手のレスターと協業し、講師や教員の専門性を再現したAIクローンによる学習支援サービスの提供を目指すほか、培った技術で教科書大手の取り組みも支援する。「学びを止めない環境づくり」の一助を担う同社の最前線に迫った。

 「人間らしいAIで教育現場に改革を」。東京ビッグサイト(東京都江東区)で4月下旬に開いた「EDIX(教育総合展)東京」の会場を巡ると、そんなキャッチコピーを掲げる展示ブースが目に飛び込んできた。ICT(情報通信技術)でアクティブラーニング(能動的学習)を促すなど教育支援に取り組むレスターのブースだ。

 そこで存在感を放っていたのが、オルツが開発したAIクローン「CLONEdev(クローンデブ)」を生かした学習支援サービスだ。両社は、実在する講師や教員の思考をAIで再現し、学習者が24時間365日質問できる新たな教育サービスの構築を狙う。利用する学習者は自分のペースで学習を進め、理解を深められるようになる。質問すると即時にフィードバックが得られるため、学習の効率を高めることが可能だ。AIクローンなら気軽に質問できるため、学習者の心理的な負担を減らすこともできる。

 ブースでオルツの担当者は、サービスが教育現場にもたらす効果に触れ、「講師や教員の負担が軽減すれば、より高等な教育や研究に専念できるようになる」と強調。どこに居ても質の高い教育を受けられる環境づくりが進むことに期待感を示した。実証実験を経て、来年度にも商用化することを目指しているという。

教科書大手と対話型サービス実現

 一方、学習者一人ひとりに寄り添うAI対話型の学習サービス「教科書AI ワカル」の提供を4月に始めたのが東京書籍。同社が長年培った教科書制作のノウハウに生成AIを融合させたサービスで、教育総合展でアピールした。まずは、中学校用の英語教科書「NEW HORIZON」に対応した体験版を無料公開。今年秋に有料版の本サービスを投入する予定だ。他の同社の教科書に広げることも視野に入れている。

 具体的には、オルツが開発・提供する大規模言語モデルを基盤としたノーコードの生成AIプラットフォーム「altBrain (オルツブレイン)」を活用する学習サービス。東京書籍の教科書に準拠した内容で、利用者が質問やリクエストを入力すると、生成AIが教科書の内容などに基づいて即時に解説や問題を生成してくれる。さらに、AIとの対話で「問い」と「答え」を繰り返すことで、学習者自身が主体的に考え学びを深められるようにした。

 教育現場では近年、生成AIを学習支援に役立てる動きが急速に進展。文部科学省もAIを活用した個別最適な教育の推進を打ち出している。従来の一斉授業だけで個人の理解度や学習意欲の差にきめ細かく対応することには限界があり、各個人の理解度や学習ペースに合わせて最適な学習環境を提供することが望まれていた。

 ブースで東京書籍の担当者は、授業の復習などを学校以外で自主的に行う家庭学習の難しさに触れ、「どう学べば良いかわからない場面で、AIが『学びの道しるべ』として力になってくれる」と説明。その上で、インターネットにつながる環境で利用できるサービスを通じて、全国各地の子どもたちに学ぶ機会を届けることに意欲を示した。