2025.05.09 「震災を嫌な歴史で終わらせない」 ダイヤモンド半導体を原発廃炉に 福島県に世界初の量産工場

大熊ダイヤモンドデバイスのダイヤモンド半導体

 人工ダイヤモンドを材料とする「ダイヤモンド半導体」を世界で初めて量産する工場の建設に向けた動きが、福島県で始まっている。整備するのは、北隣の双葉町にまたがって東京電力福島第一原子力発電所がある大熊町。原発の廃炉作業に活用する半導体を製造する。北海道大学と産業技術総合研究所(産総研)発のスタートアップ、大熊ダイヤモンドデバイス(札幌市北区)の挑戦が本格化している。

大熊町に工場を建設

 同社は工場建設に向け、3月に地鎮祭を執り行った。2026年には世界で初めてダイヤモンド半導体の量産を開始する計画だ。大熊町に工場を造ることで、地域の雇用創出につなげる狙いもある。

 同社の星川尚久社長は「廃炉という事業は、2011年から日本に住んでいる人間として当然乗り越えるべき責任」と意気込む。

地鎮祭には70人超の関係者が列席

材料の特徴と用途

 ダイヤモンド半導体の最大の特徴は、その優れた耐熱性、耐放射線性、大電力効率、そして高周波数性能だ。アナログ半導体の材料としては、シリコンだけでなく、次世代材料の炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)も実用化され始めているが、これらを上回る性能を備える。

 高温に強く大電力を扱えるため、パワーデバイスとしての利用にも期待が集まる。さらに高周波も扱えることから、RF(無線周波数)デバイスとして「ポスト5G」の通信基地局への展開も見込まれる。

 従来の半導体材料には難しい過酷な環境にも耐えられることから、廃炉作業で重要な役割を担うことが可能だ。

 具体的には、「中性子検出器」というデバイスに利用する。このデバイスは、溶け落ちた核燃料とその周辺の構造物が混ざった燃料デブリを取り出す過程で必要になる。

 そこでは、燃料デブリが核分裂反応を起こし「臨界」状態に達することが大きなリスクとなる。臨界状態では中性子が発生するため、その確認は中性子の検出によってなされる。一般的には、高放射線環境下で中性子を検出することは難しいが、ダイヤモンドはそうした環境に耐性があるのだ。

中性子検出器の概念図(KEK / Rey.Hori提供)。ロボットアームに取り付ける。

廃炉からその先へ

 同社は、ダイヤモンド半導体を廃炉に使うだけでなく、その先も見据える。星川氏は「廃炉に向けて培った技術を成長産業に実装し、利益が還元できる形にするところまでやり抜きたい。そうすることで、震災をただの嫌な歴史で終わらせないことができる」と力を込める。原発の稼働における中性子検出器の活用や航空宇宙、通信分野といったより規模が大きい市場への展開も検討していく。

大熊ダイヤモンドデバイス社長の星川尚久氏

 そこで強みとなるのが、国立系機関の研究が下地にあること。北大や産総研などが連携研究機関だ。星川氏は「ダイヤモンド半導体として最初の国家プロジェクトになったのが大きい。国立の研究所に横串を通して連携できた」と話す。

 実際にダイヤモンド半導体の工場建設に踏み切ったことも、同社の特徴といえる。星川氏によると、「(ダイヤモンド半導体の)設計に向けた取り組みは他にもあるが、工場を造ろうとしているところは世界中でもあまりない」という。同時に、「ダイヤモンド半導体を産業として成り立たせるために工場は必要なはず。ここはわれわれにとっても乗り越えるべきところ」との認識も示す。

福島工場の外観イメージ

大熊町の地域活性化も

 工場建設は、大熊町の雇用創出にもつながると期待されている。星川氏は「地方創生の成功には、新しい市場に根差したギガベンチャーが中枢にいることも多い。中心となる産業があってこそ、周辺の産業も育ってくる」と見ており、町全体の活性化につなげたい考えだ。

 実際に「順調に人は集まってきている」(星川氏)状況で、移住者を中心に若者の雇用も生まれている。今後は、大熊町に移住含めて20人の雇用を生み出そうと、随時募集を続けている。町側からの期待も感じているという。  次世代デバイスとして注目を集めるダイヤモンド半導体の量産に向けた動きが、世界に先駆けて日本で、そして震災からの復興事業として始まっている。

<執筆・構成=半導体ナビ