2025.08.28 【コンデンサー特集】AIサーバー向けコンデンサーの技術動向 ルビコン
図-1 エッチド箔とアルミ粉末積層箔の断面比較
近年の情報技術の進化とモバイルデバイスの普及によって、デジタルコンテンツのデータ増大、クラウドサービスの需要増加、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進、ビッグデータ分析や人工知能(AI)技術の普及などが進み、データセンターの需要が増大している。データセンターはデジタル社会にとっては不可欠なインフラとなり、大容量・高性能なサーバーのニーズも高まって、これらはますます普及していくと予測されている。特にAIサーバーは計算能力とデータ処理能力に優れ、AIソリューションの実現にはなくてはならず、自動運転、画像認識、音声認識などの大量のデータ処理能力が求められるシステムで活用されている。AIサーバーの需要は、生成AIの発展とデータセンターの拡大に伴い、世界的に急増している。AIサーバーの電源システムに使用されるコンデンサーには、セットから求められる性能を実現させるため最先端技術が採用されている。本稿ではそのAIサーバー用に採用、検討が進んでいるアルミ電解コンデンサー、薄膜高分子積層コンデンサーについて紹介する。
アルミ粉末積層箔採用 業界トップクラスの高容量化を実現
■入力用コンデンサー
<基板自立形アルミ電解コンデンサー MXZシリーズ>
電源入力用コンデンサーには小型化、高容量化が常に求められている。特にAIサーバーは負荷変動が大きいために、なお一層の高容量化要求が強い。ルビコンではこの要求に応え、業界トップクラスの高容量化を実現した基板自立形アルミ電解コンデンサーMXZシリーズを上市し、サーバー電源への採用が広がっている。MXZシリーズの高容量化を実現した最大のポイントは、陽極箔(はく)に従来のエッチド箔ではなくアルミ粉末積層箔(以下積層箔と記す)を採用していることである。
図-1にエッチド箔と積層箔の断面比較写真を示す。エッチド箔はエッチングという電気化学的な粗面化処理により、高圧用電極箔ではストレート状のピット形状を成型させて表面積を拡張した構造を有しているのに対し、積層箔はアルミニウム粉末をバインダーに分散させアルミ箔表面に塗布して乾燥、焼結したもので、粉末同士の間に生まれる空隙により表面積を拡張した構造となっている。これにより、エッチド箔と比較してより高容量な電極箔を得られる。
また、エッチング処理を行わない積層箔は環境負荷物質の軽減にも貢献する。一方で、電極箔を高容量化するほど箔の強度は低下する傾向があり、積層箔も従来箔より強度が低下しているため、強度面で扱いづらくなっている。さらに、アルミ粉末積層箔の構造はエッチド箔に比べ複雑な構造となっているため粉末間細部まで電解液を浸透させるための工夫が必要であった。
ルビコンでは高品質な製品を安定生産し想定通りの特性を実現させるため、積層箔との相性のよい電解液を選定し、さらに製造設備を長年自社開発してきたノウハウによって積層箔を採用する上で最適な製造条件を確立した。これにより積層箔の採用が可能となり、エッチド箔を使用した基板自立形の最高容量品よりもさらに高容量化を実現した。表-1にあるようにエッチド箔品(MXTシリーズ)と比較しMXZシリーズは約15%の高容量化となった。また、MXZシリーズの製品サイズは100L品までラインアップし、高容量製品の充実を図っている。

高耐熱、高リプル電流、長寿命など高性能特性
■出力用(BUSコンバーター用)低圧コンデンサー
<導電性高分子アルミ固体コンデンサーハイブリッドタイプ PKV/PZKシリーズ>
ルビコンの導電性高分子アルミ固体電解コンデンサーハイブリッドタイプ(以下ハイブリッドコンデンサーと記す)は、導電性高分子と独自開発の機能性液体を併用することで、高耐熱、高リプル電流、長寿命、低ESR、優れた温度特性などの高性能特性を実現している。高容量化のためには高倍率電極箔を採用してコンデンサーサイズを大きくすることが最もシンプルで有効な手段であるが、ハイブリッドコンデンサーにおいては、直径を大きくして電極箔を長く巻き取ると金属抵抗の影響が大きく導電性高分子の特徴を生かすことができず、期待される性能が得られない。このためコンデンサーサイズは直径φ10mmまでのラインアップとなっている。
一方で、製品長さ(L寸法)を長くした場合には、導電性高分子を均等にコンデンサー内部の高倍率箔のエッチング細部にまで充塡(じゅうてん)ができず、想定通りの性能が得られないという課題があった。ルビコンではこの充塡性について、導電性高分子の充塡性の改良と自社開発の製造設備によって製造条件を最適化して問題解決を図り、業界では唯一ハイブリッドコンデンサーで製品長さ20mmLまでの商品をラインアップしている。チップタイプのPKVシリーズ/リード線タイプのPZKシリーズ(図-2)は、この技術で品質を安定させ、高容量化を実現したハイブリッドコンデンサーである。

今年、新たにチップタイプでは10.5L、リード線タイプで9Lを超えるサイズをリリースした。表-2にあるように従来品と比較して同サイズ比で約20%の高容量化となっており、φ10×20Lサイズ品は、ハイブリッドコンデンサーでは業界最大容量を実現している。

<リード線形アルミ電解コンデンサー ZLR・ZLJシリーズ>
さらに高容量化を進めるためには高倍率電極箔を採用してコンデンサーサイズを大きくすることが有効であるが、ハイブリッドコンデンサーの大径化はコストと性能のバランスが市場要求に合致しない。大サイズでの高容量、高リプル化と低価格化は非固体アルミ電解コンデンサー(以下アルミ電解コンデンサーと記す)が有利である。
電源2次側平滑用コンデンサーは、長期にわたりデファクトスタンダードとしてリード線タイプのアルミ電解コンデンサーZLHシリーズがあらゆる用途の電源で採用されてきた。このZLHシリーズは、電解液にエチレングリコールと水を溶媒として採用し含水率を高くして低抵抗化を図った電解液を採用し、小形高容量、低インピーダンス、長寿命(105℃10000時間保証)を実現したコンデンサーである。ルビコン独自の水和抑制技術により高信頼性を確保していたが、上市当時は水を溶媒として使用することへの懸念から採用に慎重になる顧客もあった。しかし、多くのユーザーでのあらゆる評価が行われ、この結果から採用が進み、デファクトスタンダードとしての地位を確立、20年以上主力商品として生産されてきた。
ルビコンではさらにZLHシリーズの小形高容量化の検討を進めZLRシリーズを開発した。ZLRシリーズには、長年培ってきた独自のエチレングリコールと水の配合技術により、ZLHシリーズよりもさらに低インピーダンスを実現させるための高電導化の改良を行った新規の高性能含水系電解液を採用した。この高性能電解液を高気密性封止材と組み合わせることでZLHシリーズ同様の長寿命性能を維持し、さらに電極箔の高倍率化を進めることでコンデンサーの高容量化を図っている。
ZLRシリーズは25WVおよび35WVのラインアップとなっておりAIサーバーで多く採用されている48Vシステムには対応できていない。48Vシステムには現状ではZLJシリーズが標準的に採用されている。ZLJシリーズは、高温安定性に優れた含水系電解液を採用してZLHシリーズより高リプル電流化したシリーズであるが、市場要求により50WV以上の製品で高容量品を随時追加しアップグレードしてきたシリーズである。表-3にあるようにZLRとZLJシリーズは、ZLHシリーズより高容量、高リプル化が進んでいる。

小型、高耐熱に加え低ESR化・熱伝導度向上
■Boost回路用コンデンサー
<薄膜高分子積層コンデンサー HPBシリーズ>
AIサーバーでは大出力による短時間の電圧低下を防ぐためにBoost回路を設置している場合がある。この回路で使用されるコンデンサーは高耐圧で高容量、低抵抗品が適しており、アルミ電解コンデンサーやフィルムコンデンサーが使用されている。
一般的なフィルムコンデンサーは、ポリプロピレン(PP)に代表される熱可塑性樹脂を延伸成型してフィルム状に加工したものをコンデンサー誘電体として使用している。薄膜高分子積層コンデンサー(以下PMLCAPと記す)は、熱硬化性アクリル樹脂を真空中で蒸着し硬化させたものを誘電体としている。このアクリル樹脂はPPフィルムよりも耐熱性が高く、コンデンサーの使用上限温度を125℃以上に設定することができる。またこの樹脂には融点がないため、周囲温度の上昇や電流重畳による発熱が過剰となった場合でもコンデンサー素子が変形することはなく、熱に起因するショートリスクを大幅に下げられる。
従来のフィルムコンデンサーとは全く異なる製法、材料からなるPMLCAPは、高電圧、高耐熱、高エネルギー密度という性能が期待でき、PMLCAP高電圧品をHPBシリーズとして今年から来年にかけてリリース予定である。HPBシリーズの特徴はAIサーバーのBoost回路用途の要求事項の多くに合致している。

HPBシリーズ(図-3)は、樹脂ケース入り汎用(はんよう)フィルムコンデンサーの内蔵素子をPMLCAPに置き換えた構成となっており、ラインアップは、表-4を予定している。HPBシリーズは、高電圧化のためフィルムコンデンサーでも用いられるヘビーエッジ構造(図-4)を使用するとともに、薄膜蒸着の利点を活用した内部直列構造を採用することでコンデンサーの低ESR化を実現している。


PMLCAP独自のサブミクロンオーダー誘電体によりコンデンサー積層数が増加することで、①並列効果によるESR低減②内部電極比率増加による放熱効率アップがプラス作用として得られる。このように誘電体蒸着製法によって得られる薄膜技術により、小型、高耐熱のみならず、低ESR化と熱伝導度向上を実現している。
電力効率改善など課題解決に貢献できる製品開発を継続
■今後の展望
AIサーバーは、自動車、医療、金融、農業、製造業、エンターテインメントなどの分野で必要とされ、需要は今後も増大していくと予測されている。しかし、AIサーバーの導入と運用にはいくつかの課題が挙げられている。特にエネルギーの大量消費と熱の発生については、資源の枯渇や地球温暖化など環境への影響が懸念され、また、この対応のための運用コストも増加している。課題解決のために関係各社で電力効率改善のための給電方式や効率よく冷却するシステムなどの検討が進められている。ルビコンでは、これらの課題解決に貢献できるハイブリッドタイプを含めたアルミ電解コンデンサー、フィルムコンデンサー、PMLCAPの開発を継続して進めている。
〈ルビコン㈱ 技術本部〉