2020.08.31 【ソリューションプロバイダ特集】市場動向 働き方改革

NECネッツエスアイの「イノベーションベース」。Web会議システムで組織や場所の制約を取り払っている=東京都中央区

テレワーク時のコミュニケーションを高める取り組みも(写真は日立ソリューションズが実証する仮想オフィス)テレワーク時のコミュニケーションを高める取り組みも(写真は日立ソリューションズが実証する仮想オフィス)

プロバイダ各社、働き方改革支援で存在感

 新型コロナウイルス感染拡大をきっかけに、テレワークを入り口に柔軟な働き方を模索する動きが広がり始めた。感染抑制に向けた「ニューノーマル(新しい日常)」の中で定着する可能性もあり、ソリューションプロバイダ各社は、顧客企業の働き方改革をデジタル技術で支援する取り組みで存在感を高めている。

 「同じコンセプトで手伝ってほしいという要請が増えている」。NECネッツエスアイの牛島祐之社長は、デジタル技術を駆使した働き方改革の支援で手応えをつかんでいる。

 顧客企業が熱い視線を注いでいるのは、同社が昨年10月から実践する「分散型ワーク」。社員が目的やテーマに応じて働く場所を選択する働き方だ。

 サテライトオフィスを首都圏1都3県の7カ所に分散。社員が自宅から約30分で通勤できるオフィスを自らの拠点「アクティビティベース」とし、勤務できるようにした。

 また、東京都文京区の本社は「ビジネスベース」として本社機能と全社のハブ機能を担う。2月には、同中央区の日本橋に新ビジネスを顧客と共創する場となる「イノベーションベース」をオープンしたほか、6月には、川崎市幸区に技術開発拠点「テクニカルベース」を開設した。

 オフィス内には多数のディスプレイが配置され、Web会議システム「Zoom」で双方向のやりとりを実践。分散型ワークを通じて蓄積した知見は、働き方改革を支援するサービスに生かしている。

 日立ソリューションズも働き方改革の支援に余念がない。同社は、社員がインターネット上に再現した「仮想オフィス」にログインして、テレワーク中のほかの社員と気軽に打ち合わせや雑談を行えるサービスの販売を始めた。

 同社は、仮想オフィスを開発した米ウォークアバウトとの間で、販売代理店契約を締結した。具体的には、社員がPCなどでネット上に再現した仮想オフィスにログイン。出社後はフロアマップを表示し、全体を見渡す。例えば、リフレッシュコーナーに集うほかの社員に対し、ビデオチャットで顔を見ながらあいさつをして、その後、仕事に集中するという仕組みを実現した。

 テレワークは自由な働き方を実現できる利点がある半面、「チーム状況を把握しづらい」「テレワーク中に孤立感や疎外感を感じる」「偶発的な雑談が減る」といった問題が指摘されていた。

 ワークスタイルイノベーション企画部の小倉文寿部長は「オフィスの何気ない日常を可視化し、分散している社員が一緒に仕事をしているかのような一体感を醸成したい」と強調した。

 決められた時間で成果を出す「スマートワーク」への変革を後押しするのは、NECソリューションイノベータ。3月から、長時間労働の是正と組織風土改善による生産性向上という二つの側面から働き方改革を支援するサービスの提案に力を入れている。

ジョブ型の導入機運

 一方、従業員が担う職務を明確にした上で処遇を決める「ジョブ型」の人事制度を取り入れる動きも広がっている。

 日立製作所はニューノーマルを踏まえ、幅広い職種で在宅勤務を標準とした働き方を加速。その一環として、今年度中にジョブ型人事制度の導入に向けた仕組みづくりを進める。制度の検証を経て、24年度には全職種で定着させる方針だ。在宅勤務を最大限に活用するためにはジョブ型への転換が必須と考えた。在宅勤務を推進力に、働き方の多様化と生産性向上の両立を目指す。

 「DX(デジタルトランスフォーメーション)企業」への転換を目指す富士通の時田隆仁社長も、生活様式や価値観の変容を踏まえて「新しい働き方やビジネスの在り方をデジタルテクノロジーで実践したい」と意欲を示す。

 4月には、ジョブ型人事制度を課長職以上の約1万5千人を対象に導入した。世界共通の職責の「レベル」を定め、それに基づいて処遇を決める。労使交渉を経て、一般社員に広げたい考えだ。

 NECは、中途採用に取り入れていた「ジョブ型採用」の対象を拡大し、来年4月入社の新卒社員から適用する。経団連は今年の春季労使交渉で、日本型雇用制度の見直しに向けた議論を呼びかけた。

 産業界が世界のハイテク市場で競争優位に立つためにも人事面の改革が不可欠で、各社の展開は先行モデルとして注目される。