2020.09.03 【コネクタ技術特集】イリソ電子工業フローティングコネクタ技術
イリソ電子工業は、厳しい環境での使用を想定した、ボード・ツー・ボード(BtoB)フローティングタイプコネクタ「Z-Move」の品ぞろえを充実させている。同コネクタは、共振吸収機能を兼ね備えた高い信頼性で、電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)などのインバータ、コンバータの信頼性の向上に貢献する製品。15年の販売開始以降、車載用を中心に、大きく採用が広がっている。
現在の自動車産業は、「100年に1度」とされる歴史的な変革期にあり、「エンジン」から「モーター」に動力の主役が変わる電動化時代の幕開けの時期を迎えている。
自動車に搭載される接続部品には、高品質とともに、高い信頼性が要求されている。特に電子化が進むEV・HEVなどの内部接続では、過酷な環境下での信頼性を確保しなければならないことから、なかなかコネクタ化が進まない状況があった。
同社はこの課題にいち早く着目し、15年に、環境適合車に必要な厳しい振動環境での使用を想定した駆動用パワートレインアプリケーション向けに、「Z-Moveコネクタ 10120シリーズ」を開発、EVやHEVなどのインバータ/コンバータ向けに採用され好評を得ている。
同社は、Z-Moveシリーズの新ラインアップとして、内部接続用0.80ミリピッチ・ボード・ツー・ボード フローティングタイプ「10128シリーズ」(写真1)を今年7月に発表した。
10128シリーズは、厳しい振動環境での使用を想定した機器内接続用0.8ミリピッチ・Z可動(Z-Move)フローティングタイプ平行接続BtoBコネクタ。可動構造でX-Y方向に0.5ミリメートル可動。Z方向は、0.02ミリメートルの共振振幅と0.5ミリメートルの有効嵌合長。タフな環境でも確実に異物の除去を行う2点接点コンタクト採用。高温環境下での使用に耐える125度対応製品。
同シリーズは、イリソ独自のフローティングテクノロジー「Z-Move」を採用し、接点が固定されたままZ方向に可動し共振・衝撃による接点ズレを防ぐ耐振動性、耐衝撃性に優れたコネクタ。狭いピッチの採用により、従来の10120シリーズに対し省スペース化を実現した(約50%削減)。
同社独自の振動シミュレーションで顧客の機器に適応した固定方法を提案し、顧客の設計を強力にサポートする。
10128シリーズの対象アプリケーションは、車載用インバータ、コンバータ、電池監視システム(BMS)などのパワートレイン/電動パワーステアリングをはじめ、コンプレッサなどのモーター/ロボットコントローラ、ファクトリーオートメーション(FA)機器、電力メーターなどのスマートグリッド機器などの振動環境に適している。
10128シリーズの特徴は、「Z-Move構造」「高耐熱」「2Point Contact」「ロボットオートメーション」などがある。
[特徴①Z-Move Vibration]
イリソ独自の「Z-Move」テクノロジーは、コンタクトがZ方向の共振に追従するため、基板共振を吸収し高い接触信頼性を発揮(図1)。これにより微摺動摩耗による接触信頼性の低下を防ぐ。また、同社ではこれまでの評価実績を反映し、独自の振動シミュレーションを行うサービスを実施している。顧客の設計初期段階から協力することで、より効果的な使用の提案が可能となる。
[特徴②High Temp]
車載機器でのエンジン回りや、デバイスの高機能化による発熱量の上昇で、コネクタ製品にも高い耐熱性が求められている。材料/設計技術を駆使して実現した10128シリーズの高耐熱性能により、過酷な高温環境下でも安心して使用できる。
[特徴③2Point Contact]
同社の提供する2点接点コンタクトは、フロント接点で確実に異物の除去を行うことで粉塵や汚れの発生しやすい環境下でも確実な接続を提供する(図2)。高い接続信頼性を要求される機器に安心して使用できる。
[特徴④ロボットオートメーション]
ロボット組み立ては、組立品質、生産タクトの安定化、労働賃金の抑制などに貢献するが、異物付着や実装・嵌合ズレ、不完全嵌合などの工程不良が発生してしまうことがある。このため、同社は、Z-Moveテクノロジーをはじめとするこれまで培ってきたテクノロジーをベースに、ロボット組み立てに適したコネクタ「ロボット組立適合コネクタ」のコンセプトを立ち上げている。
10128シリーズの仕様は、ピッチは0.8ミリメートル。フローティング量は、X軸方向=プラスマイナス0.5ミリメートル、Y軸方向=プラスマイナス0.5ミリメートル。嵌合高さ18ミリメートル。極数は30、50極。嵌合形状はスタッキング。使用温度範囲マイナス40-プラス125度。定格電流0.5A。定格電圧125V。接触抵抗100mΩ。耐電圧250V。挿抜回数30回(嵌合高さ、極数バリエーションは適宜拡充していく)。
同社ではこのほか、「Z-Move」シリーズの製品バリエーションを順次拡充している。今年5月には、新たに環境適合車のIGBT接続に適した2.54ミリピッチのボード・ツー・ボード フローティングタイプ「18021シリーズ」(写真2)を発表した。同製品は、2.54ミリピッチ ボード・ツー・ボード Z軸可動(ボトム嵌合構造)フローティングタイプコネクタ。共振吸収機能を兼ね備えた高い信頼性で、EVやHEVなどのインバータ内部で使用されるIGBT接続の作業性、信頼性の向上に貢献する。
さらに今年7月には、「Z-Move」シリーズの低背バリエーションとして、内部接続用2.00ミリピッチのボード・ツー・ボード フローティングタイプ「10127シリーズ」(写真3)を発表した。共振吸収機能を兼ね備えた高い信頼性で、EV/HEVなどのインバータやコンバータの信頼性向上に貢献する。
10127シリーズは、Z軸が可動するにもかかわらず、基板嵌合高さ8.00ミリメートルを実現した。Z-Move構造により、X-Y方向に0.50ミリメートル可動。Z方向は0.02ミリメートルの共振振幅と0.50ミリメートルの有効嵌合長を有している。高温環境下での使用にも耐える125度対応製品。厳しい環境下でも確実に接触する2点接点コンタクトを採用。優れた材料/設計技術で過酷な高温環境下でも安心して使用できる。
「10120シリーズ」は、厳しい振動環境での使用を想定した機器内接続用2.00ミリメートルピッチ、Z軸可動フローティングタイプ平行接続BtoBコネクタ。可動構造でX-Y方向に0.65ミリメートル可動。Z方向は0.02ミリメートルの共振振幅と0.7ミリメートルの有効嵌合長。タフな環境でも確実に異物の除去を行う2点接点コンタクト採用。高温環境下での使用に耐える125度対応製品。
同社は、フローティングコネクタでは、業界随一の製品ラインアップを誇り、豊富な供給実績を持つ。Z軸可動フローティングタイプコネクタの「Z-Move」シリーズは、接点が固定されたままZ方向に可動し共振・衝撃による接点ズレを防ぐ耐振動性、耐衝撃性に優れたコネクタとして、15年の生産・販売開始以降、環境適合車のインバータ/コンバータに採用され、その後も厳しい振動環境下にある駆動用パワートレイン用として採用が広がっている。
同社はさらに、フローティングテクノロジーを活用したインダストリアル市場への提案にも力を入れている。インダストリアル市場向けビジネスの中長期の成長戦略として①通信市場の変化(5Gの到来)②モノづくりの変化(ロボット活用)に照準を合わせた技術開発を強化しており、ロボットによる自動組立や高速信号化、小型化などのニーズに向け、自動組立対応小型・高速可動コネクタや、ロボットの振動部分への「Z-Moveコネクタ」などの提案を進める。
ロボット組立適合コネクタ
同社は、ロボットを使用する新たな市場創出を目的に、「ロボット組立適合コネクタ」コンセプトを推進している。同コンセプトは3つの技術(①フローティング②オートアイロック③2点接触)で構成され、顧客のロボット生産の課題を解決する製品として提案している。
オートアイロックは、FPC/FFCカードを挿入すると自動にロックされる技術。従来はFPC/FFCカードはロボット組み立てが不可能とされ、FPC/FFCコネクタの嵌合は両手で作業することが通常工程だった。加えて、斜め挿入や不完全嵌合が生じても分かりにくく検査工程が必要だった。同社のFPC/FFCコネクタ「オートアイロック」は、FPC/FFCカードを挿入すると自動でロックされるため確実に嵌合でき、ロボット組み立てが可能。
2点接触コネクタは、同一線上に2つの接点の構造を持つコンセプト。独自の2点接点技術(タンデム接点)により、浮遊物や飛散したフラックスの異物の除去、確実なワイピングで安定した接触を実現する。付着物の上に片方の端子接点が乗り上げても、2点接触コネクタのもう片方の端子が確実に導通して接触不良を防ぐ。2点接触コネクタの採用により接触信頼性がアップすることで、歩留まりが改善され、トータルコストダウンに貢献する。
同社は、19年末に開催された「2019国際ロボット展」(東京ビッグサイト)で、三菱電機ブースに共同出展し、自社のロボット組立適合コネクタを活用した自動組み立てのデモンストレーションを実施し、来場者の関心を集めた。
国際ロボット展では、三菱電機ブースで、三菱電機製の産業用ロボット「MELFA FRシリーズ」による組立工程の完全ロボット化デモを実施。イリソ電子工業の「Unit-able Socket Connector」は、インターフェイス部を標準化し、小ロット・多品種製品の実装工程を標準化可能。ユニットのソケットを共通化し、様々なユーザーの仕様にカスタマイズしたインターフェイスと嵌合できるコンセプトにより、今まで実現が難しかった小ロット・多品種製品の自動組立化を可能にしており、エンドユーザーごとの生産ラインの廃止や労働力不足解消に貢献する。